"リコテキな何か"

"リコテキなナニか"


「じゃー、今日はそろそろ配信終わりにしまーっす」
「おつかれさまっしたー」

「ノシ」
「ノシ」
「主さんお疲れ様ですノシ」
「ノシ」



俺の名前は優弥
なんとなく学生生活をしたり、なんとなくネットで生放送をしてみたり
ただただ毎日をダラけて過ごしている……早い話で言えばダメ人間な学生だ

特に刺激的なことなどなく、毎日を過ごしている
こんな生活が続いているせいか日に日に卑屈にもなっている気がする

ネットの生放送でも、とても人が多く集まる人気配信者というわけではない
ニマニマ生放送のコミュ人数が100人ちょっと程度の過疎ニマ主だ


「今日もお疲れ様でしたー♪」


生放送をやめて一息ついていると、スクイプチャットが飛んできた

「今お邪魔じゃなければお話ししませんか?」

通話のお誘いである
女リスナーがチャットを飛ばして、通話をしないかと誘ってきた
何故かこの子にやたらと気に入られている

この女リスナーの名前は莉子(リコ)、信州甲信越地方在住の女の子だ
細身で顔立ちが整っていて可愛い20歳フリーターである

莉子も昔はニマニマ生放送で放送主だったようで
名前を聞いてちょっと調べてみたら、女性ニマ主顔面偏差値ランキングスレでSランク認定されていた
もっとも、1年以上前にニマ生を引退しており、今では視聴者としてニマニマを楽しんでるようだ
引退しているので、ツイットーもSランク生主にしてはフォロワーが30人程度と少ない

「分かった、じゃあ後で通話でもするか!」
「はい、楽しみです♪」


俺はトイレに行き、その後歯磨きをし、そして部屋の電気を消した
枕元の上にあるパソコンでスクイプを立ち上げ、耳にかけるタイプのヘッドセットを装着する
寝ながらスクイプ体制を万全に整え、莉子に通話をかける

莉子との会話の内容はとても他愛のないものからディープなものまで、色々話している
お互いの顔も知っているし趣味も知っているから気安く話しやすい

「私の顔見て、幻滅しませんでしたか…?><」
「しねーよ、普通に可愛かったし」
「それより、俺の顔を見て幻滅したんじゃないか?」
「幻滅なんてしませんよ! 格好良いじゃないですか!!」


お互いのルックスの話し

「キルノートのコスしたんですよ!」
「マジか、今度見せてくれ」
「分かりました♪ でも期待はしないでくださいね><」

趣味の話

「最近干物なんですよ、リア充爆発しろって感じです><」
「普通にモテそーなのにな」
「そんなことないですよ、地元ではバイトばっかりの生活ですよ><」

リア充氏ね的な話し

「私、本当に優弥さんの事大好きですよ! 何されても良いって思えます」
「またまた、それは言い過ぎ、冗談だろ?」
「そんなことないですよ、本当に心の底から何されてもいいって思ってます」
「え、例えば莉子を監禁して肉便器にしても良いのか?」
「優弥さんが…望むのなら…」
「でもリアルにそうしたら引くだろ? そこまで無理して好きアピールしなくてもええよ」
「冗談とかノリとかであまりそういう事言われるのは好きじゃないぞ?」
「本当なのになぁ…信じてもらえないのは寂しいです……」
「……じゃあ、信じてもらえるくらいずっと好きでいてくれれば良いんじゃないかな」
「はい! そうしますッ!!」
「でも、"何されても良いくらい好き"って相当のことだぞ…」
「だって……本当にそう思うくらい好きなんだからしょうがないですよ!」

なーんという俺に対する異常なくらいの好き好きアピールされたりもしている


俺は、話半分程度に"莉子の俺に対する異常なまでの好きアピール"を受け取っていた

そして…話している間に、気がつくと寝落ちしていた……




次の日、休みなので昼食を買いにスーパーまで買い物に行くことにした
その通り道には…母校の中学校

…卒業して何年経つんだろうか
あの時見えた景色と、今の景色が違うように思えてくるほど時を経たように思えた

正面から、中学指定ジャージ姿の男女のカップルが歩いてきた
"中学生カップル"……なんとも青春を謳歌している存在なんだろう……
ちょっとDQN風に意気がった感じを見せる男の子に、清楚タイプの女の子という組み合わせだ

……普通であれば、微笑ましいな、と思うべきところだろう
しかし、今の薄汚れた俺は

「休みだし、この後は制服姿でイチャイチャするのかな、羨ましい中学生カップルめ!」

…としか思えないほど心が荒んでしまっていた


べ……別に勘違いしないでほしいが俺は童貞ではないんだからな!
ちゃんと彼女いたこともあるし、性経験だってそこそこある方だ

……しかし、必死な非童貞アピールをしてなんだが
童貞じゃないからといって、だから何なのだろうと思う
童貞から童貞じゃなくなったところで、個人としてなにか変わったことなんてひとつもなかった

ネット上では、童貞と非童貞で差別的なほどの扱いの差が酷いという風潮がある
しかし、性経験をしたからといって中身が飛躍的に変わるというのは嘘っぱちだと思う

さっきの中学生カップルの男の方は……童貞を卒業して何か変わったのだろうか……?



今の俺はもう恋愛する気が起きないほど荒んでしまった
いくら好き同志でも、付き合ってるうちに長続きはしないで終わってしまうし
誰かと遊ぶことだってできる……拘束されない生活ができる
たしかに、一人身でで寂しいこと感じる時はある
しかし、付き合うということのダルさを覚えてしまった故に恋愛には腰が重くなった気がする

……そんな荒んでしまった俺も、中学の頃の恋愛はとても純粋なものだったと思う




それは中学……いや、小学校3年生の頃まで遡る
2年生から3年生になる時に、小学校で初めてのクラス替えを経験した
そして、気がついたら好きな子が出来ていた……初恋である


初恋相手の名前は希世
とても活発で可愛い子だった
運動もゲームも好きで、笑顔もとても可愛いく、犬好きな女の子だ
とても女の子のあだ名とは思えない"野獣"あだ名で呼ばれていた
だけどこれは誰かに無理やり付けられたではなく、希世自身が望んだあだ名だった


初恋……
今までの恋愛の中で、この時期ほど純粋な意味で好きだった恋愛はない

……しかし初恋とは無情なものだ
恋の成就はテクニックやタイミング、そして度胸が成功の鍵なのだが
初恋の時点でそれらを身に着けている男が一体どこにいるというのだろうか?
少なくとも俺は……初恋に対して中々踏み出せないでいた


希世は可愛らしい上に愛嬌も良く、趣味も男の子に近い子だった
それ故か、希世の周りには男の子が良く集まり、結果、希世のことを好きになる人も多かった

ある日、友達である健介が希世のことを好きだということを知った

「じゃあ健介に協力してやろうぜ!」
もう一人の、別の友だちがそう言った

……俺は、この時
「俺も希世のことが好きだ」と言い出せなかった
小5男子にとっては、"好きな人を言う"ということすらハードルが高い時期だったのだ

「……おう、そうだな。協力……しようか」
と、自分の気持に嘘をついてしまった
そして……長い間その恋心を心の奥底に押し込めて、蓋で塞いでしまった




時を経て……中学3年の時に初めて希世に想いを伝えた……
中学を卒業したら……告白する機会すら二度と来ないような気がしたから、どうしても言おうと必死だった

本当に……笑えてくるくらいにギコちない告白だった
本気の本気で好きだった
経験もスキルもない、初恋の状態では精一杯な告白だった

……彼女にはやんわりと断られたが、それでも好きでい続けた
希世も普通に友達として接してくれた

結局、小3から芽生えた初恋は高1まで続いた
……8年にも及ぶとても純粋な初恋だったと思う




……この話がいい話に聞こえるかどうかは人それぞれかもしれない
自分自身でも賛否が分かれるくらいだ

俺はその期間だけ恋愛に対して遅れていたのだ
青春真っ盛りの人生で一番オイシイ時期の半分以上を純愛とやらに使い果たしてしまった
その一方で中学高校で先輩・同級生・後輩と制服姿でデートやキス……セックスしまくったヤツもいる
……単純に、羨ましいじゃねーか糞がッ!
と思うようにもなる




……いわゆる、反動というやつだろうか

本気で好きという恋愛をするよりも
適当に好きで、欲望にまみれれて異性と交わることが多くなった
そして、何故かそっちの方が異性との距離を近づいてけるようになった気がする
本気すぎるよりある程度気持ちに嘘を交えたほうが、何故か異性と接しやすいし、繋がりやすいと感じた

恋人もできたことは何度かある
しかし、適当にできては1年するかしないかで別れるのくり返しだった
恋愛なんてそんなものか……
仮に希世との恋が成就してたとしても、そんなものだったんだとしたら……
それに青春の長い時間をかける価値があったと言えるのだろうか?

男女の交わりというものに対し
"綺麗事の建前で繕いつつ、汚い思いを包み隠していれば平気で成り立つ程度のもの"
と割りきるようになっていった


俺は……もう純粋な恋などどうでもいい
そんな冷めた考えを持つようになっていった


………
……



「もうすぐ夏ですねー」


今日も俺は莉子と通話をしている

「夏と言えば、そろそろ花火大会か…」
「行くんですか?」
「一緒に行く相手がいねーよ」
「それとも何だ? 俺と一緒に行ってくれるのか?」


冗談めいた感じで誘ってみる

「はい、是非!」

二つ返事でOKと返ってきた

「マジかよ、莉子は長野住みだろ?」
「東京にはよく高速バスで行きますし、夏休み頃にも行けますよ!」
「まじかよ、来るなら浴衣姿でも期待しておくか」
「はい! 浴衣買わなきゃです^^」

どうやらマジで東京に来るらしい
俺への好きアピールも最初は嘘……というか誇張表現だと思っていたが
莉子と1ヶ月くらい話しているうちに、だんだんと本当なんじゃないかと思い始めてきた
……まだにわかに信じられないが

「あんまり持ち上げられても、裏切られたり嘘だったりしたら嫌だから普通にしていいんだぞ?」
「釣り乙、冗談ならいらんよ」

俺がこのように莉子に何度も牽制しても

「釣りなんかじゃないですよ…」
「嘘でも冗談でもないですよ、絶対。本気ですから。本気で何されてもイイと思うくらい好きです」
「信じてもらえなくてもずっと想い続けます。信じてもらえないのは寂しいので」


みたいな返答が帰ってくる

「じゃあ、好きにするから」
「はい、わかりました! 嬉しいです><v」
「まるで信者だな」
「信者ですよ、…それ以上かもです」



誰かの信者になる気持ちが俺には理解できないから、莉子の想いは正直良く分からない
しかし、これがもし本気の想いだとしたら……
都合の良い存在ができて嬉しいに決まっている
それがSランク美少女ならなおさらのことだ

Sランク美少女と花火大会なんて……リア充すら羨む展開に違いない
Sランク美少女に何をしようと好きでい続けてくれる……
それがもし本当だとしたら……
ラノベの主人公に匹敵するくらいの充実生活を送っていけるんじゃないだろうか?





7月になった
どうやら莉子はバスに乗って来るらしい
東京に友だちがいるらしく、来る時はいつもそこに泊めてもらっているようだ

3日後の花火大会に一緒に行く約束をした
浴衣姿の美少女にwktkしていないというのは嘘になる
当然wktkするに決まっている

今日はどうやら池袋で買い物をしていたようだ
暇らしいので莉子とメールすることにした


「友達の家で一人暇です…東京暑い、故郷に……帰りたい……でもクーラーは涼しくて助かります!」
「え、友達の部屋で一人なんだ? 友達はどこに!? なんかすげーな」

「はい! まるで家出少女\(^o^)/ 」
「友達は仕事いってます!」
「前来た時に、合い鍵使って良いって言われて貰ったんです^^」



合い鍵……だと?
普通、友達に合い鍵など渡すだろうか……?


「合い鍵とかすげぇなおい。友達って女の子なんー?」

「合い鍵ってすごいですかねぇ(o・w・o」

「いや、普通に合い鍵ってすごいぞ! って、女友達?ってとこはスルーか?」

「ああ、それに対して書くの忘れてました>< さあ…どっちでしょう(q゚∇゚)w」
「それに、男でも女でも友達は友達だしすごいことなんてないですよ?(o・w・o」


何だコイツ……
これは間違いなく彼氏か、それに準ずる関係だろ
合い鍵をただの友達に渡す男がいるかよ
……直感的にに嘘をついていると分かった
この返答は明らかに嘘で取り繕っている

しかし……黙ってスルーしていれば、浴衣美少女とデートくらいはできることだろう
だけど、あれだけ好き好きアピールしてきておいて、俺の幾度もの牽制にもめげない態度でいながら……
男に合い鍵をもらって2人きりで泊まる……
それでいて俺とも花火大会に行く……だと……?

……自称信者に腹が立った
自分の気持に嘘をついていれば、Sランク美少女と花火大会デートというオイシイ思いを堪能できることだろう
しかし……そんなことなど、もはやどうでも良いくらいに……未熟にも腹が立ってしまった


「あれだけ好き好きアピールし続けておいて、もし男の家だったとしたらビッチ乙って感じだな」



もうコイツはどうでもいい
それに、"何されても良いほど好き"というのが本当だとしたら、
この程度のメールで関係が終わるわけない

もし"何されても良いほど好き"というのが嘘だったら、
ここで終わる

そんなリトマス紙的なメールを送ってみた

……


しばらくメールの返事がない

……


20分後くらいに着信音がなり、メールを開く
リトマス紙が真っ赤に染まったような長文メールが返ってきた



「なんか…
そんなに私の生活というか事情というかに文句じゃないけど、色々言われると正直萎えます
ビッチ乙ってマジ腹立った
確かに今回は仲の良い男の家に泊まりますが、それでビッチと思われてるとか最悪すぎます
いちいちそんなことまで言われたくないし

私、優弥さんのことは大好きだけど、あくまでファンとしてです
価値観の違いとかすごそうだし、正直もう無理です

"やっぱり釣りだった、釣り乙"とか言われるだろうけど、ちょっと本気でショック受けました
永遠に釣りだと思ってくれても構いません…」



やっぱり……その程度で壊れるほどの安い想いだったわけだ
なんであんな嘘ついてまで好き好きアピールしたのか、意味がわからない


「別に男友達くらいならビッチじゃないかもしれないけど、
俺に好き好きアピールしまくった上に、合い鍵貰った男の家に泊まる
それでいて俺友花火大会に行く……
これをビッチっぽいとは思って当然だと思うけど?

何突然キレ出してるんだよ
それに、"何されても好き"って言ったわりに、この程度でキレるってどうなの?」


「合い鍵貰った男と二人きりで泊まる。この響きは確かにクソビッチですけど
幼い頃から仲良かった兄弟みたいなヤツの家に泊まって何が悪いんですか?

1つ2つくらいふざけて隠しててもいいでしょ?
自分ではいつものことだし、周りだってそれを受け入れてくれてるからキレてるんです
……ちょっと頭を冷やさせて下さい」


「俺がいくら釣りとか冗談で好きって言うこととか、嘘はいらないと言っても、
"信じてくれなくて寂しい、信じてくれるまで諦めない。
何されてもイイくらい好きなのは変わらない"
としつこく言ってきたくせに、その程度で終わる態度そのものが残念

何されても良いくらい好きと言いながらこの程度かよ…
頭冷やしたいならどうぞ」




3日後にSランク美少女と浴衣で花火大会デートという最高のイベントは、実現直前に一瞬にして消え去った

こういうところで自分の気持ちに嘘をついていける人なら、もっとオイシイ思いはできるんだろうな……
でも、自分のプライドや気持ちに嘘つけるほどのスキルが俺にはなかった


あーあー。
花火大会自体は純粋に好きだし……
予定がなくなったのは純粋に切ない気持ちになるなぁ




---3日後---


結局花火大会には行かなかった

花火当日は、駅で浴衣姿のリア充共がボウフラのようにわらわらと湧いて出てくる
そんな光景を見てもいい気分にならないので、さっさと夜ご飯の買い物をすませて家路につく


はぁ……暇だ……

器用に自分の気持にも上手く嘘をつけるかどうかはとても重要なことだと思う
それが世の中を上手く行き抜くコツな気がするからだ

……俺には、どうしてもそれができそうにない……な……
きっといつまで経っても不器用なままなのだろう



~~♪♪♪ ~~♪♪♪


メール着信音が鳴る
暇で暇でどうしようもない俺は、音が鳴るやいなや、
フナムシばりの反射スピードを以ってメールを開く


差出人は………………莉子……!


本来であれば今頃は浴衣で花火大会デートだったはず
その相手からのメールだ

パッと見ただけでもかなりの長文なのが分かるほどの文量のようだ



……



「しばらく頭を冷やして考えてました
私もいろんな事を考えたり、悩んだりしました
だけどどうしてもメールのぶん賞じゃ上手く表現できなくて……
それでこんな時間かかってしまいました

かなり長い上に、サイテーなことも書いてます

私が謝りたいのは、
"好き好きアピールに度が過ぎていた事"と"大きな嘘をついていた事"です

私、好きな芸能人とかできると良く友達に
"あの人になら何されてもイイ"とか"死ぬまで愛することを誓う"
とかこんなことをふざけて言ってるから、優弥さんにもそんな感覚で言ってました

優弥さんも一ファンが好意持ってるなー程度に軽く受け止めてると思ってました
だからあの発言も、この発言もってずっと言ってました
私が言うことが過剰になりすぎたためにこんなことになってしまって、本当にごめんなさい

そして……ここからはかなりサイテーな内容です……

実は、私、今回東京に来て幼馴染の男の家に泊まったと言いましたが、
あれは大きな嘘なんです

本当は東京にいる彼氏の家に泊まってます

彼氏がいると言えば、
優弥さんの私に対する態度が変わるんじゃないかと思うと怖くて……

ファンとして好きとか言ったくせに矛盾しすぎ……
と思われて当たり前だと思います
それでも優弥さんと話すのは楽しかったし、
それが壊れるのが怖かったし、自分のことばかり考えてました

私は罵倒されても仕方ないことをしたと思います
こんな長文を最後まで読んでくれてありがとうございます
いままで……ありがとうございました!!」




……



やっぱ彼氏じゃん、最初から分かってたよ、嘘ついてるって
女の嘘は見破りにくいというけど、あんなんハッキリと分かりやすい嘘だって分かるよ


「信じてくれないのは寂しいです……本気なのに」としつこかったくせに
"一ファンとして好きだったから冗談みたいなノリで言ってました"って……


俺はずっとずっとそういう事に対して牽制し続けてたのに、今更そういうこと言うのか……

あーあー……
なんか本当どうでも良く思えてきた


数ヶ月の間、嘘によって取り繕われていた紐が、完全に消滅すると共に、
莉子との関係は終わりを告げた



………
……





……あれから一年近くの時が経とうとしていた
俺はすっかり生放送を辞め、ニマ主はほぼ引退状態になった
もっとも、"引退"なんて、大それたことを言えるほどの人気などなかったのだが……

昔から孤独気味ではあったが、年齢を重ねるに連れてどんどん孤独になって行く気がする
家族も疎遠、友だちも疎遠……何もかもが疎遠
人間関係につかれてきて新たな関係を作るのもダルさを感じてしまう……
深い関係に鳴るのがダルいし……怖い

しかし、孤独で寂しいからか、余計に異性を求めたくなる
だから俺はインスタントの愛情を求める

最近は、適当にお金稼ぎをこなしつつ、インスタントな愛情を求める生活になっている
女と知り合っては付き合うこともなくセックスは楽しむ……
普通に考えたら褒められた生活なんてしてないと思う
欲望に忠実に……そんな利己的な生活を送るようになっていた

※但し、イケメンに限る

こんなのは嘘だ
……いや、100%嘘というわけではないかもしれない
しかし、イケメンじゃなくても行動次第で意外に何とかなるもんだ
少なくとも、俺はイケメンと呼ばれるには程遠い存在だ
それでもなんとかなる時はなんとかなる

※……なんて嘘に惑わされて踏み出せなければ何も始まらない。

俺個人はまったくモテる方ではない……
それでも不思議な事に、数打ちゃ適当に引っかかるもんだ


"好きだよ"は嘘であって本当でもある魔性の言葉
言う方からしたら別に"全てが好きなわけではない"が、
言われると"全てが認められたかのように嬉しい"

言った時点では"そうだった"としても、後でいつでも"変わりうる"
一つの言葉でも立場が変わるだけで大幅な齟齬が発生するが故の魔性の言葉

そんな言葉に惑わされると分かりきっているのに純愛などできるわけがない
どうせ惑わされるなら、本気度の低いインスタントな関係のほうが負担が少ない……



………
……




最近、久しぶりに面白い女の子と知り合った

名前は菜々(なな)。俺は菜々ちゃんと呼んでいる
地方から上京してきたちょっと変わった音大生だ


菜々ちゃんは黒髪ストレートでサラサラとした髪が美しく、
色白で細身で肌もキレイで可愛いという完璧すぎるルックス
趣味は管楽器の練習、アニメ。
そして好きなこと・されたい願望はなんと"ヤンデレ"らしい


自らを"病んでいる"とドヤ顔で自称する女の子は今まで腐るほどの数を見てきたが
自ら"ヤンデレが好きで、実際にされたい"という人は珍しいと思った


SNSで知り合い、趣味の一致もありかなり親しい仲になっている
ヤンデレにどんな風にされたいの? と聞いてみると

「ひたすら執着されたい」「ひたすら粘着されたい」と言う


「思い切り匂いを嗅いだり、舐められたり、ストーカーしたりは?」
「ああ、そういうのも良いな……」



普通なら引かれてしかるべき内容を投げかけてみても受け入れてくる…
不思議な子もいたもんだ


「じゃあ俺が気持ち悪いくらいに執拗以上に粘着しまくろうかな」
「本当に!?」
「うん、本当に」



何度も何度もそのような話しが繰り返された上で、菜々ちゃんと会うことになった

本人公認で"病むほど粘着・執着していい"なんて、こんなことはそうそうある事ではない
それが、ルックスが良い女の子ならなおさらのことだ
美少女音大生相手にヤンデレのように気持ち悪いくらいに粘着できる……
そんなことは当然、今までにしたことがない
だからこそ……これはとても魅力的な事だと思った


……正直、菜々とは会ったその日にセックスなんてしなくても良いと思っている
せっかく粘着していいんだから、長い期間にわたってジックリと味を堪能したいものだ


………
……



山手線沿いの某ターミナル駅で菜々と待ち合わせをした
リアルで見る菜々ちゃんも普通に可愛い
犬を模した肩掛けフルート入れに、淡い色を基調としたファッションがとても可愛らしい

適当にブラブラと歩いて他愛のない会話から趣味の話、ヤンデレの話し、執着の話などをしていた


「うん、ずっと粘着していいよ」
「色んな所の匂い嗅いだり、舐めたりしまくったとしても?」
「うん」
「じゃあストーカーしちゃおうかなー」
「本当にー? すごいねー!」



などという一般的な会話とはとても言えない会話をしつつ、カラオケに入ることにした
お酒でも飲もっかーっともなり、サワー系のお酒を2つ頼み、時間は2時間にした


「なにか歌ってええよー」
「え、優弥君から何か歌ってよ」
「マジかー、何にしようかな」
「なんでもいいよー」
「菜々ちゃん相手だし……変な曲を入れまくるかな」
「アハハ、なにそれー」



一般的嗜好の方々の前ではとても歌えないようなアングラ曲・ヤンデレ曲をチョイスした

……


適当に何曲か歌ったあたりで、菜々ちゃんがフラフラし始める


「酔ってきちゃった……かも……」



なんということだ
サワーをコップ半分飲んでないのに……もう酔う……だと……!?
いくらなんでも弱すぎるだろ……

菜々ちゃんは無防備にも俺に寄りかかって来る
ちょっと待て!! 俺は今日は別にそんなつもりじゃないんだ……
ジックリと長い期間、粘着して貪ろうと思っていたんだ

だけどなんだ、この美少女から放たれる襲いたくなるフォロモンは……
しかも、菜々ちゃん直々に「粘着して良い」とお墨付きをもらっている状態なのだ
そんなつもりでなくとも、そんなつもりになってしまう状況になってしまった

……しまったと言いつつも内心キターーーーーーーーと歓喜してしまう矛盾
あああああ、どうしよう


とりあえず……………………ギュッと抱きしめて様子を見ることにした


菜々ちゃんは無防備にもカラダを預けてくる

頭を撫でる
そのまま無防備にもカラダを預けてくる

撫でてハグして、カラダを預けられているうちに
ふと先日、菜々ちゃんがこんなことを言っていたのを思い出した


……



「こないだ、体育のメンバーで10人くらいで泊まった時に飲んでたんだけどねー」
「そのままオールで雑魚寝してたら、男の子と添い寝してたのー」
「それで……服の中に手が入れられてた……ような……」
「……ようなっていうか絶対入ってたな、アハハ」


……



……この子は普通にエロい子なんだ
そういうのも笑って許せるくらいに

そう思うと……ここで触らないのは勿体無いと思えてくる

髪の毛の匂いを嗅ぐ…指を甘噛みしてみる…強く抱きしめてみる……
病まれるほど求められるのが好きなんだと実感できるほどに、カラダを寄せてくる

両胸の膨らみを鷲掴みにしてみる

「んッ…んんッ……」

157cm43キロしかないと自称しするほどの細身なカラダだが
胸の膨らみはしっかりとした手応えがある……
これはマジで最上級の女の子だ……

ますます求めたくなる……執着したくなる……粘着したくなる……

そうされることが菜々ちゃんも求めているんだし……
それなら執拗に粘着して求め続けたいッ!!


「この子にはイキナリそんなことをするつもりがない、ジックリと貪ろう……」
などというリミッターなどはとっくに破壊されないものになっていた
足枷から解放されたかのように軽やかに勢い良く菜々ちゃんを貪ることに、ただただ専念する事にした
もう理性なんてものはどうでも良い、ひたすら本能的にこの美少女を貪り続けるのみだッ!


菜々ちゃんの、ありとあらゆる場所の匂いを嗅ぎ、甘噛みをし、愛撫をする……
気持ち悪いくらいに女の子を求めるという行為が…………ここまで快感なものだったとはッ!!!

気がつくと菜々ちゃんのパンツの中に手を突っ込んでいた
それでもカラダを預けてきたので、思い切って脱がそうとした
したら……脱げない……!?

「あ……スカートじゃないから脱げないよ……」

菜々ちゃんが冷静に指摘
今までずっとカラダ預けていたのに、随分と冷静なもんだ
しかし、その態度で菜々ちゃんもまんざらでもないのだと確信した
どうやらスカートに見えるがズボンタイプのものらしい
それならばと、ズボンごと一気に脱がした


菜々ちゃんの……女性器……
さっきまで貪り尽くすように求めていた子の最終防衛ラインが露になった
触ってみると、とてつもなく濡れている

脱がしたパンツのクロッチの部分も触ってみると、ものすごくびちょ濡れだった

気持ち悪いくらい粘着……
俺は菜々ちゃんの目の前で、脱がしたての下着のクロッチ部分を思い切り舐め回し味見をした後……
メインディッシュをいただくことにした


何も考えずにひたすら菜々ちゃんをクンニし続ける

「アあぁぁンッッ!! アアあぁぁぁンンッッ!!!」

菜々ちゃんの喘ぎもカラダの反応も更に強くなっていく


菜々ちゃんの女性器……めちゃくちゃ小さくてキレイだ……
元々クンニは嫌いな方ではない
しかし、人によってはあまりしたくないと思う女性器も正直多いのが現実だ……

そんな中で…………菜々ちゃんのソレはまさに格別ッ!
味もオイシイ! れだけ舐めても飽きない味、風味、肌触り、感触、臭い……どれも最高品質ッ!!!
陰毛もかなり少なく細めで量が少ないッ!!
非常に舐めやすく舐めごたえのある至高の代物だッ!!!

音大という高い学費を払われて、厳しい寮にも入って、上京してきた子の女性器を……貪り放題ッ!!
ああ……もう菜々ちゃんの女性器を1時間でも2時間でも舐め続けられる気がするッ!!!!
それほどにひたすら動物的に貪り続ける、ただただ動物的に本能的にッ!!!


……


……結局、時間いっぱいまで舐め続けた
菜々ちゃんは10時以降の電話も禁止なくらいの厳しい寮生活なので、門限も厳しい
カラオケ屋を出たあとは解散する流れだ


「これからもめちゃくちゃ粘着していいのか?」
「本当に粘着してくれるの~?」
「当然するよ、粘着しまくってやる絶対に逃さないよ、良いの?」
「アハハ、そこまで粘着してくれるなら嬉しいよー!」



相変わらず普通じゃない会話をしながら駅へと向かった




……こんな感じで菜々ちゃんと過ごしたわけだが
なんとこの日以来、菜々ちゃんからメールの返事がなくなってしまった

どういうことなんだろうか?
別に嫌って反応はなかったように思う
……なるほど、粘着してほしいのだろうか
菜々ちゃんはヤンデレが好きでされたいとずっと言い続けていた

"ヤンデレ"や"ツンデレ"はリアルにいたらウザい
これはよく言われていることだ、俺もそう思う
だが、菜々ちゃんは常にそれをリアルでも求めているという言動をしていた

だから……俺がヤンデレのようにメールでも電話でも執着する態度を取ればいいのだろうと思った
俺は菜々ちゃんに粘着したい気持ちは相当強まっていたし、それで菜々ちゃんが悦んでくれるのなら……
一石二鳥……だと思った


メールし続ける

「こんばんわ」
「今忙しい?」
「返事くれないの……?」
「怒ってるなら謝るよ……だから返事だけでもちょうだい?」
「嫌だったら一言"嫌だ"と言ってくれると嬉しいな、
そうじゃなかったら菜々ちゃん公認としてずっと粘着しちゃうよ?」
「なんで……返事くれないんだ……」


電話にも出ない……

……3日後にはSNSで繋がりを外されてしまった


……どういうことだ
ヤンデレを求めていたんじゃなかったのか?


……リアルヤンデレを求めたいと言い続けてる子でも
リアルヤンデレは嫌になるんだと実感した……




まぁ結局……そんなもんだよなー……

"ヤンデレ好きでリアルでもされたい"
という言動がどこまでの意味を含んでいるかなど、本人以外は分かるわけがない
そういう言動を見聞きした上で俺は菜々ちゃんを求め続けた
しかし、それが菜々ちゃんにとっての許容範囲を超えてしまったんだろう


言葉は放たれた時に本当でも、その範囲がどこまでなのかは、
本人と受け取り手との間で齟齬が発生してしまう
だから、その齟齬が発生した時に "嘘だったんじゃないか"
……と絶望したくなることが多いんだと思う

者心ついた人なら誰でも言葉を扱えるが、それを上手に扱うのは本当に難しいことなのだ


結局……
長い間粘着し続けられると思っていた菜々ちゃんは、たった1日で終わりを迎えてしまった




……これからどうするかな
俺は今まで純愛も、インスタントな男女関係も両方してきた

インスタントな関係も良いけど、それだけでもツライことは当然ある
インスタントに快楽を得る代わりに、それを失う回数も当然多い

かと言って、純愛が良いかといえば一概にはそうでもない
一度ハマれば長い時を費やすことになり、仮に成就したとしても結局は終わりを迎えることがほとんど
数年、費やしても良いと思える人がいて、俺もその人に思われなきゃいけない
そして、そこまでしてその人を失えば、それはものすごい心の負担になることだろう
リスクも難易度も高いものだ……


……どっちがいいかなんて、分からない

人間関係全体に疲れてきた
インスタントな愛情すら、十分に充足されない内に消え失せてしまう
……一体……どうすれば人間関係な世の中を上手に立ち振る舞えるのだろう



……



菜々ちゃんとの関係が終わって、1ヶ月ほど経った


「優弥さん、こんにちわ」
「おう、仁香。こんにちわ」


仁香(ニカ)は地元の後輩で、小さい時は兄のように慕われていた
近所のスーパーでたま久しぶりに会って以来、再び連絡撮り合うようになった


仁香は今年大学に入学したばかりの大学1年生だ
女子大というせいもあってか、コンパやインカレの誘いや、飲みの誘いなどが非常に多いらしい

聞く所によると、彼氏は今いないらしいが、つくりたいとは思っているらしい


「やっぱり、コンパとか行った方が良いんですかねぇ?」
「でも……なんかああいうの苦手なんですよー」
「複数が苦手なら、誰かサシで誘ってくる人とかはいないのか?」
「いるにはいますけど……二人きりっていうのも……」
「なら、誘ってくるヤツの中で一番気軽に話ができる人と二人きりで飲みにでも行けば?」
「んー、そうですねー。考えてみます!」



仁香は可愛いし、仁香といい思いする男は正直羨ましい
ならお前がアタックしろ……となるかもしれんが、
今はそれ以上に気になることがあるからやめておくことにする


高校を卒業以降で、サシで誘ってくる人は下心があることが多いと思う
青春真っ盛りな青々しい時期に比べて、利己的な何かが大きくなってくる時期なのだ
下心をキレイな嘘で取り繕って演出できる人がよりオイシイ思いができるのだと思う
誘いに乗る側だってそうだ
オイシイ思いをするなら、取り繕われたものを上手く見切って受け入れる精神力と技術が必要だ


俺が昔から知っている仁香という女の子……
この子は、嘘をキレイに取り繕わい演出されたモノに対しどのような行動をするのだろうか?
そういう嘘を見抜けるのか、見抜いた上で上手く扱うのか……全く見抜けずにされたい放題なのか……

自分ではなく、身近な存在である仁香が……どのように立ち振る舞うのか気になる所だ


俺は……仁香の相談役という立場からそれをジックリと観察してみたい
自分が、そういうことの扱いに上手になって行きたいからこそ……
自分以外の人がどう受け止め、どう振る舞っていくのかを観察したい……


「おう、がんばれよ。何かあったら俺で良かったら、いつでも相談に乗るよ」
「うん! ありがとう優弥さん!!」



礼を言われると、正直少しだけ心が痛む
俺もまだまだ嘘は上手く扱えてないようだ……

良い人なんかじゃなくてイイ、もっと嘘を上手く扱いたい
そういう人のほうがよっぽど"良い人"に見られるように振る舞えるはずだから



希世の時、俺は友達の恋心に遠慮して自分に嘘をついていた
その結果、想いを殻に閉じ込めてしまい、8年もの……青春の大部分の期間を浪費してしまった

莉子の時、言葉を放つ側と受け取る側の齟齬によって発生する嘘に惑わされた
その結果、相手の好意を勘違いし、過度な期待を持ち、そして消滅した
しかし、自分のプライドに嘘をついてごまかしていれば、オイシイ思いはできたはずだ

菜々の時、これまた莉子の時と同じような嘘に惑わされた
嘘と言えるし、嘘と言えないもの
言う側と受け取る側によって許容範囲の限度差が生じてしまった



自分の気持に嘘をついたり、他人の嘘や、結果論的な嘘、齟齬によって生じる嘘……


世の中を上手に生き抜いている人は、男女関係のみならず、
仕事や人間関係、趣味の場などあらゆる場面でこれらを上手く扱っていると思う
逆に、上手く扱えない人は悩み苦しみ続けることになりがちなことだろう

……


"嘘が必要ない"なんてキレイ事を言えなくなるくらい堕ちてしまったら
こうやって……開き直るしかできない気がする……


嘘の扱いが上手ければ……きっと……

人間関係で齟齬によって生じる嘘や、結果論的な嘘に心が苦められることも減るだろうな
自分の気持ちに嘘をつく事で余計なトラブルを避けて、オイシイ思いを逃さないこともできるだろうな
時には……友達がその人を好きだからとかいう理由で自分に嘘をつかずに……
……もっと素早く意中の人にアタックできたことだろう



それはさぞかし……世の中を上手く立ち振る舞えるコツなんだろうなぁ…………



だから……俺はもっともっと柔軟に……嘘を上手く扱えるようになりたい…………



そうなるためにも……自分だけじゃなく……他人の観察もシナイトナ……………………
















……キミは嘘の扱いは上手かい?
















本当は……





嘘の扱いなど上手くなくても……世の中を上手く良く生き抜けていける……





そんな理想の世の中だと……





……思いたかったん……だけど…………なぁ………………











仁香は……どんな人間関係の模様を見せてくれるのだろうか……?










俺とは違う、もっと……別の……



アタリマエでどこにでもアルようナ……



俺が……遠く彼方に忘れてしまったようなナニカを……









…………見せて………………くれるのだろうか










それとも……





俺と………………おn…………………………z……………






---終わり---

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