苔むした墓地が点在する奥に、それは建っていた。
旧いレンガには びっしりと蔦が絡みついていたが、枯れて葉の落ちたそれは、まるで壁そのものが年老いて死んでいると示すようだった。
それでも尖塔の頂点に掲げられた十字のシンボルが、この場所の意味を語っている。

 彼女はうっとりとしてため息をついた。
「あなたは ここで待っていて。」
 背後に控えている従者にそう告げて、一歩踏み出す。
足元で軽やかな音をたてる落ち葉も、傾いた柔らかな日差しも、彼女を歓迎しているように思えた。

 小さな木の扉はとても軽く、音もなく開いた。
少し かがむようにして入り口をくぐると、ほこりっぽい屋内には夕日が幾筋も差し込んで、祭壇をななめの縞模様に彩っている。
 彼女は迷うことなく懺悔室へと足を進めた。その扉もやはり小さく、穴ぐらへもぐるようにして内側へ入ると、濃い紫色のクッションが目に入る。
多くの告解者がここに訪れたのだろう、二つ並んですりきれた丸い跡は、気分を厳格にさせるようで、彼女は嬉しくなった。
そして、その跡に膝をぴったりと重ねるように跪き、ちょうど顔の横にある板戸をカタリと上げると、細かい格子の向こうにローブを着た人物が見えた。
 思わず首を伸ばして、奥にいるその人を覗きこむ。
けれど、相手はこちらより少し上に座っていて、首から上は見えないようになっていた。
 残念に思って座りなおした時、格子の向こうから声がした。
「ようこそ、お嬢さん。お話を聞かせてくれるかい?」
 思ったよりも若い声だ。
しかしそれでも、ここに その人が実在していることが嬉しく、彼女は再び歓喜に満ちた。


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