はじめは庭師の息子でしたわ。
わたくしは最初、何も疑わずにいました。
ただ、彼が他の人よりも優しくしてくれることを喜んでいたんですの。
わたくしが庭に出て遊んでいると、必ず声をかけて頭をなでてくれました。
お屋敷の中にいる他の人より歳が近かったこともあって、わたくし彼のことを気に入っていましたわ。
けれど、ある時 突然お父様が庭師にお暇を出して、彼は家族と一緒にお屋敷を出て行ってしまいました。
そして お父様はわたくしにこう言ったの。
「マルエッタ、お前は領主の娘なのだから、身分をわきまえないといけない。」
その時は、お父様の言っている意味がわからなかったけれど……後になってわたくし、聞いてしまいました。
庭師は息子を使って わたくしを手に入れて、イマルカンド領内で地位を得ようとしていたのですって。
それから わたくしは、もうすっかり男性が恐ろしくなりました。皆わたくしのことを、庭師の息子のように利用しようと思っているのではないかって。
けれど社交界へ出てからは、その心配のないグループに属していましたから、少しは気分が晴れました。
つまり、同じように領地を持つお家の方々や、帝国官僚のご家族と おつきあいするようにしたんです。
わたくしも そのくらいの頃になると、多少分別がつくようになっていましたから、私の地位であるとか、そういうものを相手が重視しているかどうか、気をつけていたんです。
それでもおかしいと感じ始めたのは、十五を過ぎた頃でした。
身分をさて置いても、わたくしは男性から特別扱いを受けていたのです。
わたくし、生来 天真爛漫に育っているものですから、男性も女性も お友達には平等に接しているつもりでしたのに、どうしてそのようになるのか始めはわかりませんでした。
ですから注意深く周りの方々の言うことを聞いて、自分なりに考えてみましたら……どうやらわたくしは、ひとよりも容姿が優れているようなのです。
皆わたくしの髪や、表情や、あるいは体形などを、しきりに褒めて下さるのですもの。
それ自体は嬉しいことですわ。わたくし褒めていただけるたびに、きちんとお礼を申し上げることにしています。
けれど……本当のことを言えば、わたくし上辺だけで自分を判断されるのはいや。
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