ふふっ

 それまで黙って彼女の話を聞いていた格子の向こうから、はじめて物音がした。
「そうだね、なかなかいい……悪くないね。」
 笑っているような声だった。
彼女はひじをかける台よりさらに下までかがんで、なんとか格子の向こうの顔を見ようとしたが、やはり相手の顔は首から上がよく見えない。

 あきらめて、無理な格好から起き上がろうとした その時。
大きな物音と同時に、懺悔室の壁が激しく揺れた。
あっと思う間もなく、彼女は何か黒い塊のようなものにのしかかられていた。
「まあそのくらいなら、大丈夫なんじゃないかな? あんまり強すぎると後が面倒なんだけど。」
 先程まで確かに格子の向こうで聞こえていた声が、今は頭上から聞こえる。
狭い懺悔室の中、無理な格好で押さえつけられているため、相手を確認することができない。
「ぅぐふ!」
 なんとか声を上げようとするが、頭をつかまれてクッションにおしつけられ、声にならなかった。
「まあ、そう暴れなさんなお嬢さん。僕に喰われてしまった方が、いい方に転がるタイプの人だって時々いるからさ。」
 何を言われているのか、彼女にはさっぱり理解できなかった。
困惑している間に、自分を組み敷いているものは髪をまきあげ、首と頭蓋骨の付け根あたりを まさぐり始めた。
抵抗しようにも、恐ろしい力で押さえつけられて腕も脚も動かすことができない。
 うなじに、何かふわふわしたものが触れる感触があったかと思うと、後頭部の付け根に、鋭利な何かがブツリと刺さる感触。


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