中津川教授の退官



【プロローグ】

S52.7.7(木)
 この人と一緒になれて良かった。
 ありふれた言葉かも知れないけど、それでも毎年、この結婚記念日には同じ事を実感させられる。とはいっても、今年は何か特別な事をした訳じゃない。去年みたいに、きーちゃんを義母さんに預けて映画を見に行ったりした訳でもないし、イタリアンレストランで豪華なディナーを食べた訳でもない(去年はきーちゃんが心配で2人とも気が気じゃなかったネ…)。
 それじゃ今年、何をしたかというと…家族みんなで一緒にいただけ。たったそれだけ。でも、私にとってはそれが何よりも嬉しい。何の変哲もない当たり前の事だけど、こんな幸せな事がそれこそ当たり前のように私の目の前に広がっている事。こういうのっていつもは見落としてしまいがちだけど、とっても大切な事だと思うの。これからもずっとみんなで一緒に笑ったり泣いたりしたいね!(でも、出来ればあんまり泣きたくないなぁ…)
 そうそうこれも書いておかなくちゃ!時彦さんときーちゃんの会話。

き「ねぇねぇ、パパ」
と「ん?何だい?」
き「“あい”ってなに?」
と「(猛烈にむせる音)」
き「パパ!だいじょうぶ…?」
と「ゴホゴホッ、あぁ大丈夫大丈夫…。いきなりどうした?愛だなんて」
き「あんざいせんせいがいってたの」
と「またあの先生か…。困ったなぁ…」
き「“あい”ってこまるものなの?」
と「いやいや、そうじゃないんだよ?…でもね、無闇に言っちゃいけないものなんだ」
き「どうして?」
と「うーん…。そうだ!言っちゃたら、怪人三十面相が襲いかかってくるんだよ!!」
き「ええー!じゃあぼくは、しょうねんたんていだんになってつかまえてやるんだ!」
と「さぁ、少年探偵団!いざ進むのだ!!」
き「おおーっ!」

 困った末の言い逃れ。もう、そういう事は本当に上手いんだから!まぁ、きーちゃんは喜んでたし、今回は見逃してあげよう!でも、ちょっと聞いてみたかったなぁ…。今度聞いてみようかな?
ちなみに、私は愛ってそんなに難しいものじゃないと思ってるの。

私が思うに、愛っていうのはね―



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