愛と勇気は言葉なのか、それとも友達なのか。イコールになるなら、友達は言葉で言葉は友達だ。挨拶するたびに友達が増えるってのも理解できると思わないかな?
ま、それはさておいて。君は人を愛した事があるかい? 僕はある。今だって愛している。君という存在をね。君の方は僕を愛してくれている? お互いに相手を愛することが出来たら、それはとても素晴らしいことだと僕は思うんだ。
右の耳から入って左の耳から出て行っているみたいだね。そりゃ、僕の言葉なんて聞きたくないだろう。わかる気がするよ、その気持ちと反応。僕の四人目の母が、四人目の父に対して同じ態度をとっていたからね。
ところで、君は家族愛って奴を信じている? 信じるか信じないかあなた次第って言葉があるけど、信じてほしくない話を自分からするはずないのにね。僕は家族愛を信じているんだよ。そして君にも信じて欲しいんだ。家族愛はある。それは血の繋がりや住んでいる場所に関係なく、動物だった頃の人間から存在する本能の愛とも言えるね。
僕の話をしよう。僕はまず、どこから誰によってどのようにして生まれたのかを知らない。よくある話で、孤児院の前に赤ん坊の僕が捨てられていたらしいんだ。ご丁寧にヘソの緒もついていたそうだ。それを僕はお守り代わりにいつも持っているんだけどね。そしてよくある話セカンドとして、そこで幼少期を過ごして小学校に入る頃に、とある家庭に養子に入ったんだ。そして僕はその家の家族と仲良く暮らしてめでたしめでたし。現在に至る・・・・・・となっていないのは君には教えてないから知る由もないか。すまんね。
少なくとも僕には不幸な事件だったとしか言えないよ。引き取られた二日後に強盗が押し入って一家全滅。僕は刺されどころが良かったらしくてねー。もう手遅れになっていた、妹になったばかりの女の子から血液をもらって何とか助かってしまったわけだ。助かった直後は色々考えたねー。主に家族になっていた二日間を。わかるかな? 午後に新しい両親が孤児院に迎えに来て、付いてきた新しい妹を加えた四人でファミレスに遅めの昼食を食べに行ったのが凄く嬉しかったんだ。甘い味付けのケチャップソースを僕がこぼしちゃってね。それを新しいお母さんが拭いてくれたっけか。新しい家に着いて新しい僕の部屋を見て、わくわくもしたなあ。孤児院からも学校に通っていたけど、新しい部屋に自分だけの勉強机があるのが衝撃的だったんだよ。しかも、新しいお父さんは更に驚くプレゼントを送ってくれたんだ。それは新しいランドセルだよ。孤児院では古いランドセルを使っていたんだ。僕の前に何人も使っているような、年季が入った奴をね。これからもそれを使おうと思っていたし、現にその時も背中に担いでいた。でも、言葉通りピカピカの新品ランドセルを、新しいお父さんから手渡されたんだ。そのときの感動は忘れられない。そして僕が初めて感じた家族愛でもあった。現金だなんて思わないでくれよ?
新しいお母さんが手作りの夕食を振る舞ってくれたのが一緒にご飯を食べた最後だったかな。四人一緒の布団に入って、左からお父さん、僕、妹、お母さんだった。我ながらよく覚えているよ。孤児院にいるみんなと寝るときとは違う暖かさを感じたなあ。次に起きたときは病院のベッドだったから、実質その家族とはそれでおしまい。葬式にも出席したけど、そこに僕が手に入れたはずの愛は無かった。そのまま孤児院にとんぼ返りさ。
これで一人目の動機は十分だと思うけど、どう?
「・・・・・・妹を殺した理由はなんだ?」
シオミちゃんだったっけ? 可愛い子だよねー。高校正とは思えないほど愛くるしい体型・・・・・・おっと失礼だった。とにかく、彼女十六歳でしょ? 十年前に死んだその妹が
ちょうど同い年なんだよね。シオミちゃんと。とりあえず理由はそれでいいかな。うん、これはいい理由だ! 幼き頃に死に別れた義理の妹の面影を追い犯行に至る・・・・・・愛に溢れた事件だねえ。
・・・・・・納得してないの? 納得して貰わないとこっちは困るんだけどなー。それじゃあ次の回想に行ってみようか。
哀れ新しい家で新しい家族を亡くした僕は孤独に少年時代を過ごし、中学高校と進んで現在に至る・・・・・・わけないよねー。信じちゃった? 信じるか信じないかは・・・・・・もういいか。ははっ。
つまりは孤児院に戻ったからといって、それでずっと孤児であるとは限らないんだよ。おかげさまで僕は、二件目の養子に入ることになりました。.。これも人間が持つ愛だよね。一度引き取ってくれた家が全滅しちゃったんだから、普通だったら気味悪がって敬遠するのが普通だと思うだろ? ところが二つ目のご家庭は、普通じゃなかったわけだ。詳しいことは全員死んだからわからないんだけど、とにかく金持ちだった。物好きというかなんというか、僕を引き取った理由は強盗に襲われて無事だった少年だったから、なんだってさ。その中には同情も入っていたけど、僕はそんなのどうでもよかった。新しい家族。再び得ることの出来た幸せは、世界が愛で回っていることを認識させてくれたんだ。
もちろん、引っ越しして三日目には、その家を継ぐ予定だった長男が暴れて台無しになったわけだけど。とんだアサシンだよね。一族と使用人、合わせて二十人弱を一晩で殺すなんて。寝ている使用人の喉元をナイフでサクサク切ったなんて、誰にでも出来るわけじゃ無い。僕の義兄さんになる予定だったその人は、最後に自分の心臓にナイフを突き刺して、殺されていた両親の上にかぶさる形で発見されたってさ。長男の部屋から遺書も見つかった。そこにははっきり、『養子になったアイツが家を継ぐのは嫌なので終わらせます』と一言。またしても難を逃れた僕は、以前と同じように家族を失った。それでも三日間で終わった家族生活の中で、やっぱり愛を感じたんだ。愛は素晴らしい。この頃から特に思うようになったよ。中学に入って二次成長も重なったからかな? 人間として成長するのに愛は必要で、僕はクラスの誰よりも愛をもらっている。ただ、その愛は他の人にとっては違う物かもしれない。
僕の愛は無関心の反対。愛の反対は無関心って有名な言葉があるよね。僕にとってそれは、関心のあること全てが愛ってことだと思うんだ。興味を持ったり欲しいと思ったり、触れたいと思ったり言葉にしたいと思ったり。そういう何かに対して何かをするという行為そのものが、愛そのものだと思ったりする。これで二人目の動機は通用するかな。あと、一人目の動機にもつながると思うんだけど、納得してくれたかな?
「・・・・・・俺の妹は、お前の義理の妹が生きていたら同い年だったから殺されたのか」
うーん・・・・・・それだけだと半分正解。確かに前もって年齢を聞いて、義妹を思い出したのは大きな理由だよ。でも、夜遅くに一人で家に帰るって言ってね、それじゃあ何だか物騒だから僕が送ってあげようと言ったわけだよ。えーほんとうですかーなんて甘い声出しちゃって、僕が送り狼だったらどうするんだろうね、その子。こりゃ将来が心配だなあと思ったとき、君に将来を心配させない方法が頭に浮かんだんだ。あと、適当にコンビニに寄って荷造り用の紐を購入するだけで準備はオーケー。油断しきってコンビニアイスを食べていた妹さんを後ろからこう、キュイっとね。暴れたみたいだけど、予想外の出来事すぎて対応できなかったみたい。しばらくしたら動かなくなったから、背負って家の前まで食っておいたんだ。確かそのとき、日付が変わるころだと思うんだけど、発見したのはいつ? ・・・・・・ふむふむ、なるほど翌朝ねー。そりゃ心配させたね、夜遅くに男と帰るのは、家族からすれば複雑な心境だと思ったんだよ。だからインターホンは押さなかったんだけど、そっちの方が迷惑だったね。夏だったからなあ。一晩放置で死体って腐る? ・・・・・・怖い目してるねー。怖いよ? あとモテないよ? 僕のように愛を語る口を持つことをオススメしたいところではある。ま、とにかく君の妹さんを愛するがあまり、殺してしまったんだけどそのことはどうでもいいよね。他のことも話してあげるよ。次は何?
「妹の死と・・・・・・兄の死についても大体想像ついた。もうそれはどうにもならない。・・・・・・彼女を殺した理由はなんだ」
お、大本命来たね! これはテンションが上がるよ! いや、君と出会って一番を愛を感じたのは、何を隠そう彼女を紹介してくれた瞬間なんだよね! まず間違いなく、僕は彼女を愛した。それも一目でね。一目惚れって信じる? 見た瞬間に電撃が走ったんだよ、こうビビビっと。そのときだけは感情が違ったな。妹さんやお兄さんのように僕から愛を与えるんじゃなくて、彼女から僕に愛を与えられる側になりたかったんだと思う。そりゃ妹さんやお兄さんのことも、僕は人間として愛していたよ。でも残念ながら、二人とも僕のタイプでは無くてね・・・・・・それは本当に苦しかった。あ、お兄さんは本当に趣味じゃ無いよ。そういう愛じゃ無いから。尊敬する部分の愛ね。でも妹さんの方は心苦しいなあ・・・・・・。だって一度告白されたんだよ? 妹さんに。おう、その顔は知らなかったって感じだね。ほとんど表情が変わらないのに、一瞬だけ眉が上がったね。いいよいいよー君も僕を愛し始めたんだねー? っと、話が逸れた。戻そう。
関心が愛であるならば、全ての感情は愛と繋がっている。繰り返すけど、何に対して何とでも思うことが、僕にとっての愛なわけだ。だから彼女に興味を持った僕の行動は何よりも愛そのものだと思わない? 君は彼女とどれぐらいの付き合いだったかな。あ、言わなくてもいいよ、彼女から全部聞いたことを今思い出すからさ。えーっと、確か君と彼女は幼稚園からの幼なじみだったね。で、まあ幼い頃はお互いの家に遊びに行くこともあるほど仲が良かったと。でも、よくある話サードで思春期の少年少女は互いを意識し始めて自然と疎遠になったと。淡いねー切ないねー。いや、こんな事情があるなら、もっと早く彼女を知りたかったよ。まず間違いなく君から彼女を奪い取っていたと思うし。今のはスルー? まあいいか。でも、正確には奪い取るって訳でも無いんだけどね。君たちはつきあっていなかったから、僕が彼女とつきあうことになっても君にそれを口にする権利は無かったわけだ。あ、それでも彼女は君のこと好きだったのはわかるよ。彼女が輝く瞬間は、なんと君のことを話している時だったのさ! つまり君は彼女に想われていたんだね。これは恋だけど、愛に通ずる物があるとは想わないかい? 君も彼女のことが好きだったんだろ? どうして告白なりなんなりアクションを起こさなかったんだい? そうすれば少なくとも僕は、君の目の前で彼女を殺していたよ。僕は『殺し愛』を誰かに見て欲しいんだ。出来れば愛する相手に近しい人がいいね。でも殺すという愛は衝動的で、自分でも困ってしまうよ。君もニュースで、「カッとなって殺した」なんて犯人が言ってるのを聞いたことない? 僕はそれを見て笑っていたんだ。そんなことあるわけないってね。まあ、その後一目惚れを経験して、結果的に衝動で彼女を殺しちゃったから、僕も笑われる立場かな。おおっ・・・・・・思ったよりも照れるなこれ。いやーお恥ずかしい。
いやさー、殺すのに理由はいらないよね。僕は勘違いしていた。愛は衝動的でもあるんだ。昨日まで何の接点もない人を殺すことの出来る人間は確実にいるんだよ。同じように、昨日まで愛していた人を表情一つ変えずに殺せる人間も確実にいる。断言してみたけど、僕がこの目で見たわけじゃ無いからなんとも言えないね。ただ僕自身がそんな人間だから、僕が証拠になればいいんだけど、それは叶わないかな。残念。
ついでに彼女の最後も教えようか? いやなに、簡単だよ。助けてって言いながら君の名前を呼んでいたね。いやー愛だねー! やっぱり最後は本当の愛を求めるわけだ。僕は人間を愛しているし、彼女を愛していた。だから『殺し愛』った時、彼女が別の人間に愛を向けたことがとても嬉しかったんだよ。愛は人をつなぐ。僕は彼女に、彼女は君に。君から僕には来ないのかな? トライアングル完成でマクロスピードに突入出来るだろうか。であるからして、一方通行でも相互でも、愛は存在しているってことだ。愛を愛する僕にとって、これは最上級の快感だったね!
ま、愛に別れはつきもので、その一瞬の愛の表現で彼女は死んでしまったわけだ。僕は愛は信じているけど天国や地獄はイメージできないんだよね。もちろん、そういった人間が作り出す幻想を僕も信じたいよ? でも信じるには僕が死ぬしかないじゃん。それはもう論外だね。僕は愛されるよりも愛したいんだ。マジで。あ、彼女に関しては例外ね。今までの人生で与えて欲しい愛は彼女の物だけだったから。彼女になら『殺し愛』われても良かったと思う。それをしなかったのは、嫉妬かもしれない。愛に飢える嫉妬は醜いね。反省反省。そんでもって当然君にも愛を与えるのが僕としての信念だったんだ。彼女と君は愛し合っていた。つがいの鳥は片方が死ぬともう片方も後を追うように死ぬなんて話があるだろ? 彼女を殺したんだから愛し合っている君も殺してあげるのが、僕の愛だったわけだ。でもね、こんな状況じゃ僕は君を愛せない。もう上がっているけどお手上げ。物理的にどうこうすることは出来ないって訳だ。となると、だ。最終的に僕はどうなるのか。もちろん君自身が僕を愛してくれるんだよね? 綺麗に愛死てくれることを祈るよ。
「最後に一つ。なぜ俺の両親を殺した」
僕を捨てた最初の親だから。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
それ以外の理由は無いよ。探し当てるのは色々と大変だったけど、馬鹿な親だったのは助かったかな。孤児院で世話になった人から噂を聞いて、自分なりに調べてみたんだ。酒を飲ませたら言わなくてもいいことまで喋ってさー。とりあえず孤児院の名前と赤ん坊を棄てた日が一致したし、それを追求したら案の定驚いていたし。君が今手にしている包丁だけど、君の家から拝借したものだ。切れ味あんまり良くなかったから研いだけど、二人の喉を切るには必要ない作業だったかな。さすがに洗ったけど、そのナイフで僕が殺されるって事は、ある意味心中なのかな。一緒に死んでないから違うか、ははっ。
「お前は普通に死ぬ。そして俺も死ぬ。つまりは心中ってことだ」
本当かい!? それは嬉しいねー。心中って事は君は僕の一番の理解者かもしれないね。わざわざ僕と死ぬって事は、それ事態が愛ってことかもしれないね! 愛がわからないって人は、大丈夫。あるとき突然心に暖かいものが生まれる瞬間があるはずさ。それが人を殺すことに繋がるか、人を生かすかの違いだけだからね。愛があれば何でも出来るって言葉があるくらいだ。末永く長い目でのんびりと優雅に愛を待つと良いよ。
さてと。二人で愛を紡いでいきたかったけど、そろそろお別れだね。天国や地獄があるならいつか愛し合おう。君とは愛死愛たい。来世でも愛たい。愛の手を差しのべたい。騙し愛もしたいな。無関心を貫く人にも愛たい。愛と無関心。愛反する二つを二人で語り愛たい。その結果僕が愛を失ったとしても、それはそれで愛だ。僕自身が決めた愛だ。そろそろ殺すKAI? さあ君の持つ包丁でどこを刺す? どこを刺しTAI? 本当に刺しTAI? 殺したTAI? 愛しTAI? AIせる? 君に? 僕は出来る。君がしなければ僕が君をAIする。殺すからね。でもそれって僕のAIだよ? と思ったら振りかぶった! さあ殺せ! 僕を殺SHIてIをSHIるんだ! 降RIてくる! 僕はSHIぬ! つIに究極のAIが僕に! AISHIてくれてあRIがとう! KIMIのJINSEIがIに溢れてIますようNI!
アイラビュー君! アイラビュー僕! 僕は君のこと愛してい――――――――――――。
感想
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