7.「日常へ」
 縁は昨日の席で雑誌を読み、煙草を喫み、珈琲を飲んでいる。

 正午になって2人がやってきた。
 閻羅は両手にこんにゃく屋の袋を持って「いやぁ群馬限定のこんにゃくが最高でね」非常にゴキゲンである。
 命も大きな包みをもっている「久しぶりに現世来ると良いわぁ、ヘルメットとグローブ買っちゃった」此方もゴキゲンである。
「2人共大荷物ですね」と縁は少し呆れながら言う。
「縁くんは、向こうに居る時とあんまり変わりませんね」
「あんたは折角の現世だってのに何か無いの?」
「んー、まぁ物はコレだけですけど、色々有りましたよ」と鞄を示しながら

「あ、ところで2人とも傘は?」3人で顔を見合わせて笑った。

 先ず車に戻って手持ちの荷物を積み込んで、それからMacとその他を受け取り積み込んだ。
 リアシートを片方倒して、ギリギリで積めた、室内ミラーから後ろが見えない。
 帰りは永福ICから上に乗って、河口湖を少し観光してから帰った。

 戻るゲートで今度は「お帰りなさいませ、閻羅様」と恭しく青鬼が迎えた。
 この日はみんな疲弊していたので、荷は自身の物のみを下ろして解散した。

 部屋に戻るとクマが「飯!早く!」と言いたげに強く鳴いている。  
「ごめんごめん」と言いながら奮発した缶詰を皿にあけると勢いよく食べ始めた。 
 少し長く耳の裏から背を撫でてやる、もう一度「ごめんな」と、遠くの誰かに言うように。 
 シャワーを浴びて、読みきれなかった雑誌と小説を取り出した。

 小説を読みながら、いや、いつの間にか読んでいない、字面を追いながら、別のことを考えはじめる。

 無意識に煙草を咥えて火を点ける、軽く吸って、ゆっくりと吐き出す。
 浄化するように、侵蝕するように、躰を廻る。
 あっちもこっちもそっちもどれも、何もかも、考えても仕方ないことで世界は満ちている。

「憶えて無ければ嘘じゃない、か」

 ぼんやりと理解るような理解らないような
 でも其れでいい、好きにしよう

 人生なんて、何があるかわからない
 人生?自分は今も人か?

 思考と停止を繰り返して、今日も夜は更けていく。

終.
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