太陽が町に沈み出す夕暮れ。
 小さな公園には、ブランコの横でしゃがみこむ少女と、帽子をかぶった少年がいた。
 「痛くないもん。」
 少女が言う。
 「痛くない訳ないだろ。」
 少年は心配そうにかがみこむ。
 「痛くないもん。大丈夫だもん。」
 「血、出てるし。」
 ブランコで擦り剥いた左足。赤い雫が痛々しく流れていた。
 「ほら、おばちゃんにバンソーコ貼ってもらおうよ。」
 「やだ。怪我してないもん。いらないもん。」
 いつまでも意地を張り続ける少女の手を、少年は取る。
 「行くよ。」
 「やだ。」
 「行くの。」
 「やだ。」
 溜息を吐くと、少女がびくっと震えた。
 「痛くないんだろ?」
 「うん。」
 「じゃあ、家帰れるじゃん。」
 「やだ。」
 「帰れないぐらい痛いの?」
 「痛くないもん!」
 言った反動で立ち上がり、少年をにらみつけた。
 瞳にはうっすら涙がにじんでいる。
 「ほら、行くよ。」
 「やだ。」
 「ほら。」
 つないだ手を少し引くと、少女の左足がぎこちなく伸びた。
 「早く消毒しなきゃ、ばい菌いっぱいになっちゃうだろ。」
 「……うん。」
 いつもより遅い少女に、少年は歩幅を合わせて歩く。
 ゆっくり、ゆっくり。
 ふと、少女が手を握り返した。
 「痛い。」
 「痛いんじゃん。」
 「はやく家帰る。」
 「はいはい。」
 少しずつ、でも着実に歩みを進める彼らに、夕焼けが笑う。
 暖かいヒカリ。
 包まれていると、痛みさえ消えたような気がして。
 でも、しばらくこのままでいたくて。
 少女は歩みを止めず、ゆっくり歩いた。
 少年は歩みを合わせ、ゆっくり歩いた。


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