空と猫と屋上と
青い空、白い雲。
春も去り、風が吹くと涼しくて心地いい。
屋上での昼寝もはかどると言うものだ。
「起きなさい。」
うつらうつらしていたところに。透き通る高い声。
目を開けると、眼前に白いセーラー服に身を包んだ少女がいた。
「いっつもこんなとこ入って。いつか先生にチクってやる。」
「お前も入ってるんだから、他人のこと言えないだろ。」
腕時計を見る。昼休みは後七分。予鈴が鳴るにはあと二分。あと二分も寝られたのに。
「あたしはいいのよ。」
上から腕を組み圧力をかける少女を前に、仕方なく身体を起こした。
「なんでお前はいいんだよ。」
「生徒会だもん。」
自論で僕をなぶる。でも、僕も反論には持ち合わせがある。
「じゃあ生徒会がここの鍵直せよ。」
「やだよ、あたしが入れなくなっちゃう。」
そう言って僕の言葉を受け流し、隣に座る。
あと一分。
予鈴が鳴るまで、あと一分。
僕とサナエが出会ったのは、幼稚園の時だったと思う。
母親同士が仲が良く、何かにつけて一緒に遊んでいた。
鬼ごっこもした。おままごともした。ぬり絵もパズルもした。
アヤやタイチやヨウスケやキヨも一緒だった。
毎日が僕たちの時間だった。
僕たちは小学生になり、中学生にもなった。
アヤのことは結城と呼ぶようになり、僕は疎遠になった。
タイチとヨースケとは仲が良いままで、たまにゲームをしにお互いの家に行った。
キヨは学校に来なくなった。最初は迎えに行ったりしていたけど、そのうち行かなくなった。
サナエのことは、人前では崎谷と呼んだ。二人だけならたまにサナエと呼んだ。
サナエは僕のことを高橋君と呼んだ。二人だけならコウタと呼んだ。
色んな友達が出来て、色んな友達が離れて行った。
それが大人になることなんだって、中学生ながらに思った。
そのうち、僕たちは高校生になった。
タイチはスポーツの強い学校に、ヨースケは進学校に行った。
結城は音楽学校に入ったのだとサナエに聞いた。キヨはどうしているのかわからない。
みんなと、すこしずつ疎遠になって行った。少しさみしく思うときもあるけど、仕方ないと思えた。
僕とサナエは同じ高校に通った。今は二年生だ。
サナエは眼鏡をかけるようになり、僕はサナエより身長が高くなった。
色んなものが変わった。
でも、僕とサナエの時間は、まだ時を刻んでいた。
やがて予鈴が鳴り、教室に戻る。
僕は三組。サナエは六組。階段を下りれば、言葉も交わさず右と左に分かれて歩く。出会ってなどなかったかのように、背中合わせに歩いていく。
誰も僕たちが友達だなんて気付かない。
たまに振り返ってみると、サナエは廊下で友達の輪に既に混ざっていた。
僕が教室に入って教科書を出して、一息つくと本鈴が鳴る。
それからは、ごくごく自然な学校の一部分。
個性を殺して、僕もサナエも誰もかも、全員が生徒になった。
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