授業が終わると、部活がある人は元気よく駆け出していくし、だらだらとおしゃべりする人もいる。
僕はいつものように図書室に向かった。
ここで勉強道具でも広げれば、立派な勤勉高校生が出来上がる。
僕は角の席に鞄を置き、今日は日本人作家のな行の棚から読みたい本を選ぶ。
少しだけ気に入っている作家の一冊を手に取り、読み始めた。
暖色の表紙のその作品には、共感できることと出来ないことが入り混じっていた。だけど、窓から射す太陽がオレンジ色に染め上げるページには、なんとなく温かみがあって、時間を忘れさせた。
ポーン。ポーン。ポーン。
下校を知らせる放送が鳴ると、僕は貸し出し手続きをせず、そのまま本を棚に戻す。
鞄を背負い、図書室を出ると、隣の教室からサナエが出てきた。
「高橋君、今帰り?」
声には出さず、頭を少し下げる。
サナエも声に出さずに、教室に戻って行った。
僕は待たずに玄関に向かう。靴を履き替え自転車を出すと、丁度靴を履きかえるサナエと出会う。
僕たちは何も言わず、校門を歩いて抜ける。しばらくして住宅街に入ると、早苗が荷台に座る。
「さ、漕いで頂きましょうか。」
「たまにはお前漕げよ。」
「やだよしんどい。」
自分の鞄をカゴに入れ、サナエがしっかり座っているのを確認して、ゆっくりと漕ぎ出す。最初は安定しないが、二回三回とペダルを漕ぐと、まっすぐに速度を上げる。
「聞いてよコウタ、今日藤原先輩がめんどくさくってさー――」
今日も愚痴を撒き散らしながら、自転車は進む。
一度道を右に曲がると、太陽が正面に沈む道に出る。目をすぼめてやり過ごしながら、二人分のペダルをこぐ。
えっちら、おっちら。
サナエの家の前まで来る頃には、かなり速度が落ちていた。
「今日もありがとね。」
「感謝するぐらいならパンでもおごれよ。」
「いいじゃん帰り道なんだから。じゃーまた明日。」
振り返ることもなく、サナエは家に消えて行った。
もう頭の先しか見えない夕焼けを眺めながら、また自転車は走りだす。
軽くなったペダルに少しの寂しさを感じながら。
えっちら、おっちら。
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