初夏が来たら梅雨もほどほどに夏になった。入道雲が主張し、太陽光線が照り返す。屋上で寝るには少し厳しい。
 ドアのそばにできた影に身を寄せて、僕は下敷きで風を起こした。
 「…あっつい。」
 言葉に出したところで涼しくなる訳もない。むしろ勢いを増したかのような日差しが、影からはみ出た腕を焦がす。
 「なんていうかさ、溶けるよね。」
 当たり前のように隣にサナエの姿があった。ドアにもたれかかって、美味しそうにアイスを頬張っている。
 「溶けるね。アイスが。」
 「アイスもね。」
 「僕のは?」
 「ある訳ないじゃん。これジュンちゃんと半分こしたんだし。」
 一袋に二本入っているアイスの茶色い方を、これでもかと吸い上げる。
 「可愛そうな高橋君。」
 ちゅぽっと音を鳴らすと、へしゃげた容器に空気が戻る。
 「でも、テスト終わったら夏休みだからさ。そしたら食べ放題なんじゃないの?」
 にゃはは、と高らかに笑う少女の相手をする元気もなく、影から出て日光を浴びる。
 じわっと汗をかいた。下敷きで太陽をさえぎる。
 「あ、」
 真っ白に映える屋上のど真ん中。貯水槽の太い管の影に茶色と白の毛玉。身体を管にくっつけて涼んでいる。
 「どっからきたんだ、お前。」
 話しかけても答えが無い。
 「うわ、猫じゃん。三毛かわいー。」
 影から出てきたサナエは、どこからかさきイカを取りだした。
 「これはミコちゃんにもらった。」
 どこから、と突っ込みを入れる前に回答が寄せられた。
 「ほれ、ほれ。」
 さきイカをひらひらと三毛猫の視界にちらつかせると、猫は興味を持って目を動かす。
 「簡単にはやらんぞ。」
 左右の動きに加え、上下にもイカを振ると、猫は首も動かしだした。
 「ほれ。」
 ふと動きを止める。素早く猫パンチが飛んできて、さきイカを奪われた。
 「「おおー。」」
 同時に予鈴のゴング。この試合は三毛猫の勝利となった。




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