「ねえ、どうしたの?」
 「なんでもないよ。」
 少女はその場にうずくまり、苦しそうに呼吸をする。
 「膝、痛いの?」
 「ううん、ちょっと、待ってね。」
 深呼吸を繰り返す少女に、少年はただ戸惑って右往左往するだけだ。
 少年には何も出来ない。
 ただ、彼女の様子を見守るだけだ。
 「――ごめんね、もう、大丈夫だから。」
 何分たったのだろう。
 少女はようやく立ち上がり、強張った笑みを浮かべた。
 「行こう。」
 何と返事をしたらいいのだろう。
 戸惑った少年の手を、少女は引いた。
 「膝は、痛くないの?」
 ようやく出た言葉は、結局は慰めになどなっていないけれど。
 「痛いよ。」
 少女の本当の気持ちが聞けるような気がして。
 「痛い。」
 我慢してほしくなくて。
 「帰ろう。」
 早く、陽が落ちてしまう前に。
 



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