あの夏の風景。君。今。







 オレ――、未来からきた って言ったら……、ワらう?





  77.
 あの日を思い出して大学ノートに走り書いたセリフを眺めた。
 シャーペンを握ったまま、研究室の窓から外を見る。
 青い空に白の入道雲が湧きあがっている。
 セミの鳴き声は聞こえない。
 携帯電話がアラームを鳴らした。正午。
 今日は、水曜日。
「――行くかっ」
 ノートを閉じ、携帯を持って立ち上がった。
 晴天。宇宙みたいな、夏の日だ。










  1.
 高校に入学してまだ1カ月。4月30日。
 だというのに、転入生が来るらしい。それもこのクラスに。

「試験とかどうしたのかな。高校の転入って、そう簡単にできるんだっけ?」
「何か事情がないと、いくら私立っていっても認めてもらえないんじゃなかったかなぁ」
「事情? 親の転勤とか?」
「こんな時期にいきなり転勤なんてさせられるモンなの?」
「さぁ……」

 優は後ろの方から聞こえてくるクラスメイト達の雑談に耳を傾けながら、宿題を写す手を動かし終える。
「あい! さんきゅーるり!」
「今度はゆうちゃんが見せてよね」
 優のペンの動きを隣に立って見ていた瑠璃は、返されたノートを受け取るとニコリと笑う。
「転入生だってねー」
 シャーペンを鼻と上唇で挟みながら、くぐもった声で瑠璃に言った。
「また。やめなよそれ、女の子でしょ」
「はーい」
 その時、チャイムが鳴るのと同時に教室の前ドアが開き、担任の先生、――の向こうに、
 男性教諭である担任よりも頭一つ背の高い、知らない男子の顔が見えた。
 パサリと、優の足元に何かが落ちる。思わず転入生から視線を外して床を見ると、さっきるりに返したノート。内履き、黒いソックス、少しだけ見える膝、スカート、ブレザーと視線を上げると、そこにはぽかんと口を開けて、転入生の顔を見つめるるりの顔が青春だった。
 ちょっと頬を染めちゃっている。パッケージされてる桃みたいだ。
「るりー?」




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