水曜日のお昼時、この喫茶店に彼がいるらしい。
親友から聴いた通りに、その面影が後ろ姿にあった。
「左近寺くん」
優は、その後ろ姿に声をかけた。
彼が振り向く。目が驚きに見開かれるのを見た。
左近寺くんは立ち上がって、数歩こちらに近づいてきた。
優の身体は、まだ首の角度を覚えていて、左近寺くんの反応も6年前と変わらなかった。
優は右手を上げて、背の高い彼の胸の真ん中に掌をつけた。
彼の鼓動と、熱と、重み。
「わたしは、ここにいるよ?」
「うふふ、未来からきたなんて、そんなファンタジー、あるわけないじゃんか」
「そんな宇宙みたいな顔、しないでよぅ」
6年振りに、優は彼に笑った。
そして、最後に見つめ合った時と同じように、彼は右目から涙を流した。
優の髪は今、腰の下にまで伸びている。
最近ばっさりと切ったるりよりも、長くなった。
6年分の色々を、これから訊いてやろう。そして聴いてもらおう。
特に、4月30日以前の彼についてはもう、話してくれてもいい頃だ。
これだけ待ってあげたのだから、恩返しはしてもらわなきゃ。
左目からも溢れ出しそうになった涙をぬぐい、
パッケージされた桃みたいな表情で、左近寺くんは口を開いた。
「オレは、優が好き」
「本当は、6年前に言いたかった事だけど」
「優が、好きだ」
優は吾朗を見つめたまま一度ゆっくりと瞬きをして、
右手を彼の背中に回し、
そこに左手も重ねて、
先程まで右手を当てていた所に、顔をうずめた。
マスターが見てるけど、そんなの、気にしないもんね。
言葉のいらない優の返事に、吾朗は言う。
「ありがとう」
「うん」
「ごめん」
「――……んーん」
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