勇者あー様との冒険の記録
わたしの名前はマリア。旅の僧侶をしています。
いつからそうしていたのかもう覚えていませんが、とある酒場で一緒に冒険してくれる仲間を探しています。
他所から来た冒険者が留まっていられるところといえば、宿と店と酒場ぐらいです。
ですので、昼日中だというのに酒場はほぼ満席ぐらいの賑わいで、様々な職種の方々が食事とお話で大盛り上がりでした。
わたしはそんな中で一人、カウンター席奥の少し薄暗いところで一杯のミルクをちびちびと時間をかけて飲んでいました。
そんな時、わりと大きな音を立てて酒場の扉が開きました。
中は結構うるさかったのにもかかわらず、扉の開く音は私の耳にも届きました。
振り返ると、他の職種の方には見られない初めて見るかっこいい服装に身を包んだ方が、そこに立っていました。
背格好などから年の頃15、6の少年に見えますが、凛々しい顔つきに薄い笑顔。吸い込まれるような黒い瞳。どこか底知れない器を感じます。
少し張り付いたような表情なのが気になりましたが、わたしは目を離せませんでした。
わき目もふらずズカズカといった感じで真っ直ぐにカウンターにいるマスターへと向かっていく彼に、酒場はいっときの間ボリュームを落として注目していましたが、ややもするとすぐに騒がしさを取り戻していました。
しかしわたしは目を離せず、つい長々と見続けてしまいました。それが彼に気づかれたのでしょう。マスターと話す途中、こちらにクルリと体ごと回転し目を向けられたのです。わたしは体をビクリと跳ねながら、さっとテーブルに目を落としました。
ジロジロと見てしまった。変な人……ううん、失礼な人と思われたでしょう。
ため息をつきました。できたら謝りたいという気持ちが湧いてきます。でも、人見知りの私に見知らぬ彼に声をかける勇気はなく、ただ落ち込むことしかできませんでした。
彼は一人だったな。一緒に冒険している人はいないのかな。わたしを誘ってくれないかな。
落ち込んでいながらも勝手な思いが頭の中を渦巻きました。わたしは頭を抱えて体をブンブンと振り、自分勝手な考えを振り払おうとしました。
そのため、酒場のマスターの呼ぶ声に気付けず、彼の直接の訪問を受けることになりました。
わたしは突然、彼の仲間に加えられたことを知りました。ハッとして横を見ると、すぐ隣に彼はいました。座っていたわたしからは見上げる形になりましたが、その距離は30センチと離れていません。
わたしは体が硬直するのを感じました。
(わ、わ、わ、なんて言えば――)
ビシィッ!
凛々しいお顔をした、しかし表情の変化がぎこちない彼は、わたしの頭にチョップを叩きこんできました。
あっけにとられるわたしに、彼のすぐ後ろにいたらしい戦士が「よろしくお願いいたします」と言ってきました。
ビシィッ! その戦士にもチョップ。
魔法使いのおじいちゃんも控えていて、わたしに一礼をしてきます。
ビシィッ! そのおじいちゃんにもチョップ。
硬直の解けたわたしは、取り敢えずチョップは無視して慌てて席を立ち、二人に礼を返しました。
その間に彼の姿はそばから消え、扉の方から、
集まるよう命令が伝わって来ました。
わたしはまだ頭が混乱していましたが、転びそうになりながらも慌てて彼の元へと駆けたのです。
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