彼はなんと勇者様でした。
 伝説の勇者。個でありながら魔王に対抗し得る唯一の存在といわれている、あの勇者様だそうです。
 彼が他の職業の方には見られない格好であることも理解できました。なぜなら勇者とは世界で一人だけだからです。勇者様以外に勇者様の格好をした人などいないのです。すごい。わたしは勇者様のパーティの一員になりました。
 勇者様の名前は「ああああ」様というそうです。
 一瞬、変わったお名前だと思ってしまったことを懺悔いたします。人様の、それも勇者様の名前に対して失礼な感想を持ってしまうだなんて、わたしは人として未熟者です。きっとご両親様が思いを込めた、意味のある大事な名前なのでしょうに。本当に申し訳ありませんでした。

 今日は勇者様の指示で、街の周辺でレベル上げをしています。
 朝から晩までひたすらウロウロして、モンスターを見つけては退治していました。
 勇者様は、なんと王様から支度金を貰っていたので、それで薬草などを買い揃えられていました。
 でも、おそらく節約家であるところの勇者様はそれを使いません。わたし達の体力が底をつきそうになっても、かまわず次の敵を探します。
 勇者様とは思っていた以上に勇猛果敢な方で、わたしなどはずっと肝が冷えっぱなしです。
 しかもです。勇者様は、それでいてなんとレベルが1なのです。
 これにはびっくりしました。駆け出しのわたしもレベルは1なのですが、伝説の勇者様のレベルも1だったなんて。さらにはわたしと同じく勇者様のパーティとなった、戦士のアレクスさんに魔法使いのマーリンさんもレベルは1だそうです。
 それを知って急に強い親近感が湧いたわたしは、戦闘勝利時に「一緒に強くなりましょう」などと軽口をたたいてしまいました。
 わたしを一瞥した勇者様の瞳が、印象的に記憶の中に残っています。実際、その後の記憶はそれ以外があやふやです。

 気付くとわたしは教会にいました。というより、棺桶の中に寝ていました。
 あの後、すぐにわたしは体力が尽きて死んでしまったようです。
 王様に貰った支度金は意外と少額だったみたいですから、わたしを生き返らせるお金を用意するのは大変だったはずです。微力ながらもわたしを欠いてなお戦い続けるのは大変だったことでしょう。
 聞いた話ですが、倒れてしまった仲間をそのまま旅人の酒場に放置していく悪徳冒険者達も少なくないらしいのです。
 わたしは慌てて、心なしかたくましさが増したアレクスさん達といる勇者様に、お礼を言いました。しどろもどろで、どれだけうまく言葉に出来たか不安ですが、精一杯感謝を伝えました。
 勇者様は、お腹を抱えて笑われました。わたしには分かります、照れ隠しだと。
 出口に向かう勇者様に深く礼をするわたしに、アレクスさんは言いました。
「これから大変だと思いますが、頑張ってください」
 はい、もちろんです。
 マーリンさんも声をかけてくれます。アレクスさんもそうでしたが、マーリンさんもどこかしら昨日より溢れる生命力みたいなものを感じます。
「お前さん。悪い方に気に入られたのかもしれんの」
 はい? どういう事でしょうか?

<集合>

 勇者様が命令を飛ばします。わたし達は勇者様に駆け寄ります。みなさん足が速い。
 勇者様が前方に向かってチョップを空振りし、続いて開けた教会の扉の先には、強烈な陽射しが降り注ぐ、異国のような建物ばかりの街並みが広がりました。
 どうやらわたしが寝ている間に、建物が改築されたみたいです。
 こちらに気づいて駆け寄ってきた女性が「息子を助けだしてくれてありがとうございます」と言って、深々と頭を下げてきました。
 どうやらわたしが寝ている間に、事件を解決されたみたいです。
 勇者様がキラリと陽の光を輝り返す切れ味の鋭そうな鋼の剣を抜き、掲げました。
 どうやらわたしが寝ている間に、棍棒を卒業されたみたいです。

 ――いつの間にかタラリと冷や汗をかいていたわたしは、恐る恐る左隣にいるアレクスさんに訪ねました。
「あれから何日経ったのですか?」
 アレクスさんは左上に顔を剃らしつつ言いました。
「……30日」
 右隣にいるマーリンさんにも訪ねました。
「今のレベルはいくつですか?」
 マーリンさんは右上に顔をそらしつつ言いました。
「……15」
 見ると、勇者様がお腹を抱えて笑っています。
 そしてチョップ。
 そしてダッシュしながら、

<集合>

 わたし達は急いで追いかけて、追いついた時にはわたし一人だけが疲労困憊でした。



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