……やる気について疑問に思うことがある。
やる気というものは「やる」「気持ち」なのだからやる気があるからといって行動へと結びつくのだろうか。
その気持ちはあるつもりでいるのだが、行動に結びつかない。
こうして考えだしたのにも別段やる気があったわけではない。
テストにむけて勉強をしなくてはならないがはじめる気になれず、かといってゲームがしたいとも思わない。
少し前までラジオを聴いていたからまた聴く気にもならない。
とにかく何をする気にもなれずこうして考え始めてみたのだ。
普段、このようなことを深く考えることはしないのだけど、最近はよく同じこと、やる気についてぼんやりと考えていたからなにか自分を納得させられる結論が出るのではないかと思い、考えだしてみたのだ。
しばらくしても考えはまとまらず時間だけが過ぎていった。
こうしている間にも勉強あるいは自分のためになるほかのことができたんじゃないか。
過去に一生懸命勉強をして、よい結果がでて喜んだ経験はある。ならば今、また勉強をしてよい結果を出せば喜べるとわかっているのになぜ勉強をしようとは思えないのか。
もしかして、本当は……
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「こうして考えだしたのにはやる気はなかったんだよ」
「そうなの?じゃあ、なぜ考えはじめたの?」
「考えることに興味があったからかな。じょうずに考えることはできないけれど」
「じゃあ、君が行動を起こすにはやる気か興味のどちらかがあればよいの?」
「わからない。でも、興味をもたずに行動を起こすことだってあるだろう」
「それは、例えば?」
「勉強だ。やる気も興味もないが、あとのことを考えてやっている」
「勉強をして、よい結果が出たら嬉しかったんでしょう?」
「それは……」
「……なにかの形で満足がしたかったのかもしれない。そういえば、思い当たることがほかにもある」
「俺は音楽を聴くことに興味がある。だが好きなアーティストのCDを買い、封を開けずにほうっておくときがあるんだ」
「音楽を聴いていないのに?じゃあほんとうは、集めることに興味があったの?」
「そういうわけでもない」
「俺はときどき、自分の興味が嘘じゃないかと疑ってしまうことがあるんだ」
「例えばどういうときに?」
「今だ。俺は音楽を聴くことに興味があるのにどうしてCDの封を開けないんだ?」
「ほんとうは音楽を聴くことに興味がないから?」
「そうだ。ほんとうは音楽を聴くことに興味はないが、CDを買うことで嘘の興味だとしても満足していたんだ」
「ああ、似たようなことがほかにいくつもあるんだ」
「ゲームについてもそうだ。俺の夢はゲームプログラマーになることなんだ。」
「その俺からゲームをとりあげたらどうなる?俺の夢が、なくなってしまうじゃないか」
「ゲームへの興味も、嘘なの?」
「そうかもしれない。ゲームをして楽しむこともあるがそれは現象にたいしての感情の動きであって、自然だろう」
「ああ、せっかくだ。この機会に俺についてきちんと考えてみるとしよう」
「全部考えるんだ。最後のひと結びまでな」
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……今まで自分について深く考えたことはなかった。
既に斬り捨てたゲームについての興味は今まで何度も考えてきたことはあったけれど、興味に疑いをかけるにまで考えるとこれ以上は自分の根幹に関わると思ってやめてきた。
そうして考えるのをさけつづけてきたのも、それが嘘だったからであろう。真実ならば疑いはかからない。
およそ中学生のころから将来ゲームプログラマーになりたいと思い始めた。
将来の自分を考えたときに、過去にゲームをしておもしろかったのでそう決めた。
人生の目標が見えていないと不安だった。
父さんは別居し、母親には厳しく叱られた。小学校では身体的な特徴からいじめられ、自分がなにをして生きていったらいいのかわからなかった。
ここでゲームプログラマーになりたいと、初めて自分に嘘をついたのが全ての間違いではないか。
……しかしそれを否定すると、今までそれに従って生きてきた自分をも否定することになる。
ならば今こうして考えている自分そのものが間違っているのか。わけがわからない。
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「むかし考えたことを思い出した。全ての間違いは俺には関係がないところで起きたんじゃないかと」
「どこで起きたの?」
「両親だ。両親が起こした歪みが、俺をも歪ませたんだ」
「子供を二人も産んでおきながら、仲違いで離婚なんて馬鹿げている。この世で一番のアホだ」
「残された子供がどうなると思う?」
「どうなるの?」
「俺のようになるんだ。おかしいだろう」
「うん。おかしいね」
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父さんは仕事で帰りが遅く、自分が寝てから帰ってくることがほとんどだった。
休みの日にも一人ででかけてしまうことが多く、幼いころの父さんとの記憶は片手で足りるほどしかない。
父さんはよく海外出張に行きおみやげとしてぼうしをたくさんくれた。
父さんから物をもらったことがあまりなかったので大事にとっておいたら母親にすべて捨てられた。
どこかの国で買ってきてくれた細長いコーヒーカップのようなものだけが残った。
いつものように出張にいっていると思っていたら、ある日別居をしていると気づいた。
一度だけ別居先に行ったことがあるが、あまりの物の少なさに恐ろしさを感じてすぐに帰ってきてしまった。
あの光景は今でも目に焼き付いて忘れることはできない。
そのころにはもう父親への憧れがあった。どうすることもできなかったがただ他人の家庭が羨ましかった。
しばらくして父親が海外に2年間出張すると聞いた。小学校卒業の間近だった。
もはやいないのが当たり前であったので何も思わなかった。この出張は後に1年間延長された。
2年が過ぎてある日、母親から唐突に苗字を変える気はないかと聞かれた。
理由はわからなかったけれど涙が出そうになったので話を濁して席を外した。
理由はすぐに分かった。苗字を変えたら、いよいよ父さんとのつながりがなくなると思ったからだ。
それから、それから……
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「もうじゅうぶんだよ」
「……」
「悲しかったんだ」
「父さんがいなくて悲しかったんだ。今、わかった」
「うん」
「悲しくてしかたないから、夢と興味を作ったんだ」
「目標である夢と、寄り道のための興味があれば悲しみを感じる暇もないだろ」
「今まで俺はなぜ生きているかわからなかった。だがそれもわかった。悲しいからだ」
「ああ、思い出した」
「家に父さんの匂いが染み付いた椅子があったんだ。机の上にはパソコンがあった」
「ロボットが戦うゲームを見せてもらうこともあった。ああ、ゲームへの興味のはじまりはこれだったんだ」
「それから?」
「父さんがいなくなって、その椅子に座った。そしてパソコンを起動した」
「それからインターネットを知った。そして今に至る」
「俺の人生はなんとひどいものだろう。18年間生きてきたが、これだけで説明にことたりてしまう」
「ぜんぶ、悲しかったからなんだね」
「そうだ。馬鹿げているだろう」
「うん」
「俺はいままで世界で一番不幸だと思っていた」
「いろんな人の歩んできた人生を並べてみたら俺より不幸だと言えるものもあるだろう。だが俺には関係がない」
「どうして?」
「俺が歩んできたのは俺の人生だけだ。他人は関係がない」
「ああ、今、間違いに気づいたよ」
「俺は世界で一番不幸なんじゃない。一番とかそういうのではなくて、俺は不幸なんだ。それだけだった」
「そっか」
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…………"俺"はこれからどうやって生きたらいいのだろう。
自分は悲しみから抜け出すために嘘だけで作り上げられた人格だとわかってしまった。
しかし俺は嘘をただしいと思い込んでいると真実だと錯覚できるようなおめでたい頭だと、今まで生きてきてわかった。
ならばいっそ、今までついてきた嘘のなかからひとつ選んで人生の目標としてはいいのではないだろうか。
有力候補としてはやはり「ゲームプログラマーになる」か?あっははは。
他の趣味をそのまま目標としてみてもいいかもしれない。
ああ、もはや目標なんていらないのではないか?
18年間縛られてきたんだ。しばらく自由に生きたって誰も文句を言わないさ。言えないだろうが。
いつの日か素の俺のまま、興味をもつことはできるのだろうか。
今はそれが嘘であっても興味をもっていなければ、継続していくことができそうにない。
俺はそういうふうに育って、いや作りあげてしまったんだと思う。
自分に正直に生きよう。
音楽もゲームも、好きではないのだ。
「そういう前提」の嘘をとっぱらってしまえばまた好きになることもできるかもしれない。
なんだか開放的な気分だ。いや、実際に開放されたのかな。
今ならなにかできるような気がする。これが「やる気」ってものかな? あっははは。
そうだな、手始めに……
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「ゲームのようだな」
「なにが?」
「俺の人生だ。これを使って、作品ができるんじゃないか?」
「うん。おもしろいかもね」
「ふん」
「……前々から自分の羞恥心だとかがよくわからなくなっていたんだ」
「それで、ゲーム感覚で生きているような感覚があった」
「うすうす、わかっていたんじゃない?」
「嘘にさ」
「……」
「もう、後戻りはできないね」
「何を言っている。戻る姿など、ないだろう。0からこうなったのだ」
「あ、そうだったね。あはは」
「……」
「どうだった?」
「どうだろうな。わからん」
「後悔するかもね」
「うるさい。そういえば、お前は誰なんだ」
「僕は僕だよ。君は?」
「……ふん」
「なんだか、すべてが馬鹿らしくなってきた」
「そうだね、はじめからそうだったりして」
「ああ、じゃあそれに従って生きてみるのも、悪くはないかな」
「うん。じゃあね」
「……」
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