「ついにくっついちゃったね」
「そうだね」
 待ち合わせ場所に、塩見と橘田が手を繋いで現れた時は、もう告白してしまったのかと驚いた。二人の視線から私に発破をかけるためだと気付いてなんだか申し訳なくなったけど、おめでとうと祝福したときの二人は見ているこっちも幸せになるような顔をしていたからよしとしよう。それからはいつものように全員で移動していたはずだったのだが、いつの間にかはぐれてしまった。はぐれたと気付いた時に辺りを見回して探してみたけれど、余りの人の多さに見つけることを諦めた。今は祭りの喧騒の中を寺井と二人で歩いている。まあ、いつか会えるだろう。それにいざとなったら携帯もある。並ぶ出店の品々に目を奪われながらゆっくり進んだ。
「ちょっと寂しいような、お気に入りを取られちゃった気分」
 水ヨーヨーをばちゃばちゃとはねさせて、少しさびしそうに寺井は言う。
「それはどっちを?」
 まさか塩見でないだろうと問いかけると、どっちもだよと答えが返ってきた。
「でも内輪でくっついたからまだいいのかも。僕たちじゃない誰かだったら、絶対にもっと寂しいと思ってた」
「寺井は意外と甘えん坊なんだ」
「甘えん坊と言うか独占欲が強いんだよ。僕たちはずっと一緒だったけど、いつか離れるでしょう? 分かってるんだけど、恋人が出来たからって理由で疎遠になるのは嫌なんだよね。恋人も含めて仲良しでいたいと言うか」
「それはわかるな」
「僕、みんなに好きな人が出来たら姑見たくなっちゃうかも! 本当にみんなを愛していないなら渡しません! みたいにさ」
「何だそれ」
「だって大抵のことは許しちゃうくらい僕らは僕らのことが好きだろう? 相手もそのくらいの気骨でいてもらわなきゃ」
 寺井の言い分に笑う。でもすごく共感する。私たち七人は離れがたいほどの親友で、いくつもの季節を一緒に過ごしてきた。これからも四季が巡るたびにきっとみんなを思い出す。その時に誰かがいないのは寂しい。ずっとずっと繋がりを持っていたいと思う。
「ねえ、忍田は僕らのこと、愛してる?」
「うん。でもね、お前のこと大っ嫌いだよ」
 寺井の手を握って吐きだした嘘は精一杯の謝罪だ。
 あの時逃げてごめんね。今も逃げようとしてごめんね。離れたくなくて、嫌われたくなくて、私は気持ちを隠そうとした。一番に好きな自信がなくて、断ったことでその資格を失ったとさえ思ってた。でも、もう胸を張って思うよ。私は彼もみんなも愛してるって。傷ついても傷つけても一緒にいたいって。
 私たちの仲なら伝わるだろう?
「嘘吐き」
 寺井は顔を赤くして困ったように笑った。

<了>
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