そろそろ学校も長期休みに入る。私と塩見はその準備に駆り出され、二人でプリントを束にしていた。私がプリントを順番に重ねて、塩見がそれを纏める。ばちんばちんとホッチキスの音が部屋に響く。そこに塩見の低い声が重なる。
「今度みんなで祭りに行くぞ」
その言葉に顔を上げる。当たり前だが、相変わらずしかつめらしい顔をしている塩見がいた。眉間にしわを寄せて口を引き結んでいるところはどこのおっさんかと突っ込みをいれたくなる。何かなんて聞かなくてもわかるけれど、きっと決意したんだろう。その剣幕に、どこまでも真面目で堅物で融通が利かないけど、どこまでも自分に正しくあろうとする。そんなところが好きだと言っていた橘田を思い出した。
「俺はそこで橘田に告白する」
「やっとか。もう早くしろよって思ってたよ」
茶化すように言うと、塩見が真剣な顔で私を見た。
「だから、お前も逃げるなよ。忍田。橘田も心配していた」
その顔は橘田に向けてやれ、という言葉は飲みこんで「分かってる」と答える。
あの時も彼にこんな真剣な顔を向けられた。初めて見るその顔に目がそらせなくて、初めて彼を怖いと思った。だから私は逃げた。湧き上がる気持ちを無視して、普段通りにいられることを望んだ。困ったように笑う顔を見たのも初めてだった。ああ、なんて私は馬鹿なことをしていたんだろう。私の気持ちは今更でも何でもない。結局私の気持ちは誰にも隠せていなかったことが分かって、笑わずにはいられなかった。
塩見もすっきりしたように笑っていた。私たちはすぐに作業に戻った。
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