あれから6年が過ぎた。地元の居酒屋を貸し切って同窓会をやっていた。

「そういえば辻さんとこ行ったの?」

三輪が酔っているせいか周りを気にせず聞いてきた。

「いや、明日行く予定。」

僕はビールを一口飲んた。

「いいのかぁ、それは浮気だぞぉ。」

三輪は何の意味もなく絡んできた。

「え、松本君結婚してるの?」

すかさず隣に座っていた女子が聞いてきた。僕は3年間付き合ってこの間籍をいれたと簡潔に答えた。

「そうなんだ。というかちゃんと辻ちゃんのとこに行ってるんだね。私2年前に皆で行った時以来行っていないや。なんか期間空いちゃうと行きにくくなちゃって。」

高校を卒業して大学に入っても帰郷する度に辻さんの所には行っていた。休みの度だから年に3回ぐらいが、いく度に辻さんの両親は変わらずうれしそうに迎えてくれる。辻さんは相変わらず楽しんでるのかわからないけど僕は見つけたCDを聞かせては良さを語った。会社に入ってからはさらに回数は減り年に1回程度になってしまったが、何年経っても僕が辻さんに対して抱いていた愛は変わらなかった。
僕と三輪は2次会に参加をせず帰ることにした。

「なぁ、俺たちって高校の時ゲイ疑惑でてたらしいで。」三輪が笑いながら肩をバンバン叩いた。

「そういや吉田さんは来なかったな。」

卒業してから結局二人は別れたり付き合ったりを繰り返してだらだら続いていた。

「なんか今日は用事があったみたいやで。」三輪は煙草に火をつけた。

「三輪も職に就いたんやしいい加減落ち着いたら?」

「それはつまり結婚しろってこと?まぁ結局はしそうな気がするけどな。なんかきっかけがあったらいいんだけど。」

冗談でいったつもりだったが、意外に真剣な答えが返ってきたので少し驚いた。

「きっかけなんかなんとでもできるって。そんなん自分で作っちゃえよ。」少し茶化して言った。

「お前、変わったよな。思いっきりがよくなったというか。いい方向に変わったよな。」

三輪が少し真剣な顔を見せた。

「お前はなんで結婚を決めたの?」

「3年付き合ってまだ愛していたからかな。」

時とともに僕と彼女との間の愛育った。時には大きくなったり、時には小さくなったり、僕の心と彼女の心が流されたり、踏ん張ったり。それが僕に限りない愛を感じさせた。


たぶん辻さんに対しても愛を抱いている。情、義務感。2年間のお見舞いに行っても愛は育たなかった。でも変わらず愛を持っていた。抱く感情を愛という言葉以外に置き換えることはできなかった。でもそれは別の愛だった。
その日僕は病室で8年前に昼休みにかけた曲、「Your eyes closed」を一緒に聞いた。
辻さんが倒れてからずっと流れなかった涙が流れてきた。君は裏切られたと感じるんだろうか。この6年間で愛を育てたと思ってくれているんだろうか。
ごめん、僕の心の愛はうまく育たなかった。もっと早く一歩を踏み出していたら結果は変わったのかもしれない。


次の日、僕は会社に向かう電車でご両親が却下された国に対する治療費を求める裁判を上訴するとついう記事を読んだ。昨日のお母さんの様子を思い出した。
結局は僕も肩書きは他人なんだろう。
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