日曜日昼過ぎ。私は眠たい目をこすり、ベッドから出た。いつの間にか
寝てたらしい。私は周りを見まわし健二が居ないことに気づいた。
「ん・・どこか出かけたのかしら」そう思いながら体は自然とお風呂へと向かい、
シャワーをしながら昨日の健二の言葉を思い出した。「健二・・私に
相談しなかった・・私には真っ先に相談してくれると思ってたのに・・」
そう考えると目から涙が出てきた。シャワーのお湯と涙が同時にこぼれ落ちる。
次第に私の体は崩れていく感じがした。考えすぎるのも駄目だと分かっているのに、
マイナスの事しか思えないようになってしまう。その時、外から声がした。健二が
帰ってきた。私は我に帰り浴室から出た。「おっ、千尋朝シャン?
昨日そのまま寝てしまったもんな。あれ?何だか目が赤いみたいやけど、
どうしたん?大丈夫?」健二のその「大丈夫?」の言葉が私に重くのしかかった。
私が健二をどんな気持ちで思っているか知らないの? あれ? 私はどうして
こんなに健二の事を想うの? 健二が決めたなら私はその後押しをしないと
いけないんじゃないの?私がとよかく言う必要はないんじゃないの?
わけがわからない。自分で自分を制御しきれない。気づいたら私は再び涙を流していた。
「どうしたん千尋?俺どうしていいかわからんって!」健二が慌てて叫ぶ。私は必死に涙を
抑えようとしたが動きは止まらなかった。「千尋、俺でよければ助けになるで」
その健二の言葉に押されたのか、全身の力が抜けたように私は健二の胸に飛び込み、
凄く泣いた。時間は過ぎていったけれども、私と健二は一緒のままでお互い言葉には
しなかったがお互いを強く想った。「健二・・私怖いの」健二は無言で黙って頷く。
「健二がどこか遠くに行ってしまう気がして・・」「心配しなくても俺は千尋と
ずっと仲がいい友達だから」健二のその言葉を信じ、私はその日札幌行きの
飛行機に乗った。数日後健二から新しい職場に就職したとの手紙が住所と一緒に
同封されて私の手元に来た。




健二と連絡が取れなくなったのはその日曜日以降だった。
私の電話やメールはすぐ取ってくれるはずなのに。仕事中なら折り返し電話を
くれるはず。多忙なんだろうか。それでも2週間も連絡がないのはおかしい。
何か問題でもあったのだろうか。私は次の休日に健二に教えてもらった場所へと
行くことに決めた。そして次の土曜日、私は札幌から飛行機で飛び立った。
「健二が勤めている会社は・・っと」独り言を呟きながら、私は慣れない土地を
歩く。地方の人間らしい行動だったろう。「あ、あったここね」
健二の教えてくれた住所には正真正銘の会社があった。「今日は土曜日だけど
営業しているみたいね」確認して、私はドアを開けた。「いらっしゃいませー」
「すみません、前田健二さんはこちらにいらっしゃいますでしょうか?」緊張の時。
「申し訳ございません、前田は本日休みでございます」どうやら会社には
いないらしい。「そうですか、私前田健二さんの知り合いで神崎千尋と申します。
彼の自宅の住所を知らないので教えていただけると有難いのですが・・」私の急な
申し出に戸惑う受付の人。「しばらくお待ちください」そう言って席を外した。
やはり確認はどこでもしているんだな、と私は思った。数分経つと、上司であろう人が
やって来た。「お待たせいたしました、あなたが噂の神崎さんですか」
「えっ、どうしてそれを?」「はっは、前田君が僕には大事にしている友達が
いるんです、と言うものだからね。いやぁ噂で聞く以上に美人だ」
「褒めても何も出ないですよ」初対面にも関わらず会話が弾む。「ところで、
どうして前田君に会いに?」「ここ2週間電話しても取ってくれないみたいで・・
心配になって札幌から来たんです」「札幌から? 結構アクティブなんだね」
普通に考えても私の行動は逸脱であろう。子供を心配する母親みたいで。
「とりあえず、前田君の住所はここなので」そう言って地図が書いたメモを
渡してくれた。「わざわざありがとうございます」私はそう言い、一礼を
して会社を後にした。家に健二がいることを信じて。

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