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『若い子に必ずモテるようになるコツ!~これで私はモテました!~』

私は今、駅前の本屋にいる。
そこで立ち読みをしている最中である。
お勉強中、という訳だ。
何しろ恋愛とかけ離れて数十年である。
私の若い頃とは次元はともかく、世代が違うのだ。
勉強せねばなるまい。
かと言って、私だってこの手の本が全て正しいとは思っていない。
これで誰もがモテるようであれば、この世はもっと穏やかなのだろう。

というのも以前、ある生徒が他の生徒に対して、

「リア充、爆発しろ!」

恨めしそうな眼差しでそう言っていた。
『りあじゅう』の意味は分からなかったが、爆発しろという言葉に驚いた。
いつの間に日本はそこまで物騒になったのか。
私は焦って、すぐに関先生に聞いてみた。

「ネットスラングですよ」

パソコンから目も上げずにそう言った。
それっきり何も言わなかった。
会話終了、である。
私はとぼとぼと部屋に戻るなり、パソコンを立ち上げ、早速検索してみた。
そして、『りあじゅう』が『リアルの充実している者』という意味であり、大きくいえば『彼氏や彼女のいる人間』という意味である事を知った。
つまりは、『リア充、爆発しろ』というのは、付き合っている相手のいない人が、いる人に対してある種の羨望であったり祝福であったり憎悪であったりという、非常に複雑な、いろいろな気持ちが込められた言葉であるようだ。
うーん、深い。
1つ勉強した。
そして、自分の無知さを悟った。
学ばなければ。
そんなこんなで今こうして本屋にいるのである。
余談ではあるが―基本的に私の話は授業でも何でも殆どは余談である―、早速覚えた言葉を使ってみた。
気になっていたし。

「楓くんは…リア充なのかな?」
「りあじゅう、って何ですか?」
「ッ…!?」

耳の先まで顔が赤くなるのを感じた。

所謂、『黒歴史』である。
これは去年覚えた。


それにしても、本屋に置いてある、この手の本の多さに私は驚いた。
そこにこの世に渦巻くある種の需要が見え隠れしているような気がした。
むしろ、隠れてさえいない。
まぁ、それは良いとして。
とりあえず、私はたくさんの本の中から、適当に1冊を手に取ってみた。
それがこの『若い子に必ずモテるようになるコツ!~これで私はモテました!~』だった。
すごく嘘っぽい。
そもそも私はこの民明書房という名前の出版社を聞いた事がない。
しかし、内容に関してはそれなりにちゃんとしているようである。
これで良いか。

実のところ、私は本の立ち読みというものがあまり好きではない。
だから、その本を購入して家で改めて勉強し直すことにした。
家に帰って晩御飯を食べ、風呂に入り、そして就寝。
夜中3時少し前に起きて、私だけの時間が始まる。
恋愛成就に向けての勉強開始である。
実際、成就は出来ないと思ってはいるけれど。
しかし、やってみなければ分からない!
まぁ、ちょっと好かれるだけでも十分なのだ。



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