3-6
まだホテルを出たばかりの、帰りの車中である。
予定通り、座席は前と同じ。
そこで、昨日の事を振り返った。

「いや、それにしても昨日はよくあの森から出られたもんだね」
「そうですね…。私のせいなんですけど、一時はどうなるかと思いました…。ホントにすみませんでした!」
「本当に気にしないで。私は大丈夫だから。少し腰が良くなったような気さえするよ」

本当に少し軽くなったような気がする。
たまには運動する事が必要なのかもしれない。

「それにしてもあの時、あの女の子が―」

とその時、車の前方の道の傍らにあの女の子が立っているのが見えた。
しかも、向こうもこっちに気が付いて手を振っている。
この車中に居る私達に気が付くなんて、素晴らしい目の持ち主である。
それにしても何と奇遇な事だろう。

「ほら!楓くん!あの子、昨日の女の子だよ!」

私も手を振り返す。
車はあっという間に通り過ぎてしまった。
私は座席に座り直した。

「あの…先生?」
「ん…?どうしたの?」
「あの…女の子って、何の事ですか?」

え?
急いで振り返る。
誰もいない。

「い、いや、まさか、そんな……」

じ、じゃあ…。
私の見たものは一体…!?

「ふふっ。せーんせっ、冗談ですっ」
「えっ…?」

そう言って楓くんはさっき女の子がいた場所とは別の場所を指さした。
道路の向こう側。
そこで、さっきの女の子が元気いっぱいに駆けまわっていた。
さっきのタイミングではもう渡ってしまっていただけだった。

「おいおい、勘弁してくれよ……でも、良かった…」

私は笑いながら脱力して、そのまま眠ってしまった。

知らない内に楓くんの肩によりかかっていたのは、2人だけの秘密である。



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