4.
「はい、焼きいも。熱いから気をつけてね」
「わぁ!ありがとうございます!いただきますっ」
「いやぁ、それにしても随分枯れ葉も散ってしまったね。普段はここのベンチに座ったりしないから全然気が付かなかったよ」
「そうですね。冬ももうすぐそこなのかも知れません」
「それにしても、もう卒業まで残り半年なんですよね…」
「うん。結構あっという間だったんじゃないかな?」
「はい、ビックリしちゃうくらいです…」
「そういうものだよ。私だってそうだったさ。そして気が付けばもう、退官だ」
「そうなんですよね…。やっぱり人生も同じですよね…」
「でもね、確かにあっという間だったけど、もちろん何も無かった訳じゃないよ?いーっぱいいろんな事があった。嬉しい事も、悲しい事も数え切れない位ね。その出来事をどれも全て覚えている訳じゃないけれど、その全てが今の私に繋がっているんだよ。案外見えないところでね。だから、そんなに心配する事は無いと思うよ?あっという間だけど、人生は長いし、それに加えて君はまだ若い。まだまだこれからさ」
「分かっては…いるんですけどね。やっぱり気になっちゃって…」
「分かるよ、何しろ私だって先が不安で悩んでばかりだったし。実はね、そもそも私は教授になるつもりなんて無かったんだ」
「え!ホントですか?」
「本当さ。だって、すごく大変そうだと思わない?教授って。授業もしないといけないし、その他にもいろいろな事を任されて、自分のしたい研究もまともに出来なさそうだったからね。だから、私はずっとそれを断り続けていたんだ」
「じゃあ、どうして…」
「教授になったか、だね。…うーん、長くなるからね、一言で言うとまぁいろいろあったんだよ」
「いろいろ、ですか?」
「そう、いろいろ。辛い事や悲しい事、そして嬉しい事がね。人が成長していく様を見て、自分も変わらなきゃ、ってそう思ったんだよ。だから、教授になった」
「実際、なってみてどうでしたか?」
「大して何も変わらなかったよ。確かに忙しくなったけれど、それは努力の範疇でどうにでもなる事だったからね。結局はやらずに怖がっていただけの事だったんだよ。でもそれって、結構勿体ない事だと思わないかい?出来る事なのに出来ないって勘違いする事ってさ」
「そう、思います」
「だよね。だから楓くんには出来れば、どんな事もまず出来ると思って努力して欲しいんだ。最初から出来ないと思って行動するのではなく。もしそうだと、その時点で既に諦めている事になってしまう。それだと折角出せるかもしれない力が1%でも、たとえ0.1%でも減ってしまう事になり兼ねない。それもやっぱり勿体ないよね。だから諦めない。どんな事も一生懸命やれば、自分に合った、自分だけの道が見えて来る筈だよ。…って、いつの間にか説教臭くなっちゃったね、ごめんよ」
「いえいえ、そんな!先生のお話って、勉強になります!」
「ありがとう。でもね、私の言葉が全て正しいとは限らない。だからそのまま全部を鵜呑みにはしないで欲しい。それじゃ、変な宗教と同じだからね。私は楓くんが自分の人生の中で自分なりの答えを出してくれると期待しているよ」
「…はい!頑張ってみます」
「よし、じゃあ少し寒くなってきたし、そろそろ部屋に戻ろうか」
「そうですね!ふふっ、お腹もいっぱいです」
「あぁ、私もだ」
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