5-3
私はそこにあった日記帳を持って自室に行き、そこで再度本を開いた。
そこには彼女と私の生活の断片が記されていた。
とても懐かしくて。
とても切ない思いである。
全部のページを見ていたら夜が明けてしまうので、パラパラと部分的に読む事にした。
11月14日。
この日は大切な息子が生まれた日だ。生まれた瞬間、感動して大泣きしてしまった。
8月6日。
家族3人で海に行った。瞳の華麗な泳ぎに、刻と私は拍手したものだった。
7月7日。
結婚記念日に私が刻に“愛とは何か”という質問に対して私は上手く答えられなくて焦った。
5月13日。
これは刻の授業参観の時に私がガチガチに緊張してしまって、授業中に直接刻から注意されたという恥ずかしい日だ。
6月22日
刻が修学旅行に行っている間に、瞳に誘われて久しぶりに2人っきりでデートした日である。
2月10日
瞳の最後の日記である。
一言だけだった。
一緒に生きてくれてありがとう。
かなり飛ばし飛ばしであるが読み終わった。
私は早く写真を探さなければならない。
それなのに。
それなのに。
どうしてこの涙は止まってくれないんだろう。
これじゃ、前も見えない。
私はただ。
その最後の日記を胸に抱いて泣き続ける事しか出来なかった。
私は間違っていた。
愛する人を失った悲しみが、時間と共に消えて無くなることなんかある訳が無い。
あんなに好きだったのだから。
あんなに愛していたのだから。
それはいつまでも変わらない。
そして、それはそれで良いという事を。
私はずっと悲しむ事はいけない事だと思っていた。
ずっとずっと引き摺ってしまうなら。
それはただの足枷でしかない。
でも、私と彼女の思い出は決して足枷なんかじゃない。
一緒に生きた証。
もう得る事は出来ない、大切な宝なのだから。
「私は……決して一人じゃなかったっ………」
瞳はずっとここに居たのである。
心の中に。
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