「手塚のこと好きなの?」
 と不意に聞かれた美羽は目を点にしていた。
 驚いているというより、呆気にとられているというか、本当に目を点にしていた。
 さっきまで泣いていたせいで、目を点にしている美羽が、たまにヒックと言って、体を揺らすのが面白かった。でも、全然笑えなかった。自分は、物凄いことを美羽に聞いてしまったのだから……。
 しばらくして、美羽は突然笑い出した。この不思議な状況下で突然笑い出した。
 始めは全然笑えなかったけど、美羽のあまりの大笑いに僕もいつの間にか笑っていた、始めはフフフと、怪しげな笑い。でも、そんな怪しげな笑いも今は単純なただの大笑いに変わっていた。
「馬鹿じゃないの?」
 美羽は目に涙を浮かべながら叫んだ。その涙は、最初の悲しみの涙と、さっきまでの笑いの涙が混ざっている複雑な涙な気がした。
「馬鹿ってなんだよ!?」
 と、僕も目に涙を溜めながら美羽に言い返す。笑っている、僕らは二人とも笑っている。
「なんで、あんな気障野朗を好きにならなきゃいけないのよ!」
 美羽は本音かどうか分からないが、結構キツイことを言った。
 僕はまた笑った。なぜか自然に笑えていた。
「知るかよ!! だって、手塚くんがくれたの、とか泣きながら言ったら誰だってそう思うだろ!!」
 僕は恥もなにもなく、一気に言い切った。なんとなく自分の台詞に笑いそうになった。
「はぁ~!? やっぱバカだよ、こんなバカ初めて見た!! 目の前にバカがいる!!」
 美羽は、また大爆笑した。すげぇムカついたけど、普段の美羽らしくなってきたことが嬉しかったのか、僕も笑っていた。
「バカって自分がバカにされて笑われてるのに、自分も笑えちゃうんだね?」
 と、言って更に美羽は笑った。さすがに怒った。「笑ってねぇよ!」とかバカなことを言ってしまった。
 もっとバカにされた。思い切り笑った。心から笑った。


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