あれから一週間が経った。ソラが帰ってきたことを知った母は涙を流して喜んだ。母が心配する素振りを私にあまり見せなかったのは、私に負担をかけさせないためだったようだ。日曜日のこともあって、せめて私には、気持ちだけでもソラは大丈夫だと思っていてほしかったのだろう。そして、心配をかけた母には謝った。また今度、二人で出掛ける約束をした。
 級長に仲直りをしたことを告げると、ただ一言、「そう、良かったわね」と言ってくれた。そっけない返事だったが、彼女は心配してくれていたのだろう。安心した様子で頬は緩んでいた。お礼を言うと、「別に、私は関係ないわよ。アンタ達が勝手に仲直りしただけじゃない」と言ってそっぽを向いたが、その頬と耳は赤くなっていた。彼女も不器用なタイプなのかもしれない。
 そういえば、望君にはまだお礼を言えていない。何度か河川敷に行ってみたが、ついにその姿を見つけることが出来なかった。
「ねぇ。弘美」
「うん?」
「弟っていないよね?」
「いないわよ。どうかした?」
「ううん、何でもない……」
もしかしたら、それはきっと本当に夢のような話かもしれない。でも、そんなこともあるかもしれないと思った。
「福を呼ぶ猫……か」
ソラが運んでくれた奇跡。そう信じるのも、きっと悪いことではないはずだ。だとしたら、もう会えるはずのなかった人ともう一度出会わせてくれた奇跡を、ソラに感謝しないといけない。そして、私たちのことも。
「弘美。今度の日曜日さ、一緒に服とか買いに行かない?」
「うん、良いわね。あっ、でも私あんまりそういうこと分かんないから、色々教えてね」
「もちろん。任せて」
晴れ渡る空に、双子の雲が浮かんでいた。暖かな空気の中で、セミの鳴き声が響き渡る。もうすぐ、本格的に夏が始まることを知らせているかのようにも思えた。
「そういや、アンタ達、デートはしないの?」
「え、や、やめてよいきなり」
「すればいいのに。アンタ達、両想いなんだから」
顔が熱くなっていくのを感じる。おそらく、顔は真っ赤になっていることだろう。
「……」
「ねえ、もしかして、私に遠慮でもしてるつもり?」
「そ、そういうわけじゃ……」
「今の私の幸せは、アンタ達がうまくいくことなの。分かる? 幸せにならなかったら、それこそアンタを恨むからね」
そう言って怒った顔をする。彼女なりの気遣いなのだろう。その優しさに、こみ上げる嬉しさがあった。
「うん……ありがとう。頑張るね」
「はぁ、私にもいつか春は訪れるのかなぁ」
「弘美可愛いから、大丈夫だよ、自信持って」
「アンタ達を参考に、頑張るわ」
 弘美はもう、過去のしがらみからは吹っ切れた様子だった。きっと、これからは前向きになっていくはずだ。
 そんな私たちを祝福するかのように、夕焼けに染まる西の空からの光が、長い双子の影を二つ、作りだしたのだった。


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