「んっ・・・」
 目を開けてみると知らないログハウスのような天井が見える。
あぁホントに異世界にきてるのかな、もしかしたら小学校のころ臨海学校でいった八ヶ岳の天井かもしれない。

「サトシさーん起きてくださーい朝ですよーー」
あぁ足元から声が聞こえる。その存在の背中にはキレイな翼が見受けられる。どうやら異世界のままのようだ
「おはようございます!今日はいい朝ですよー」
「おはようございますじゃないですよ。昨日強制的に眠らせといてなんですか、つうかなんで俺服変わってるんですか」
「いやぁ一応マニュアルに『召喚した時間帯が夜の場合指定の薬を使って落ち着かせましょう。彼らはとても緊張してます』って書いてあるんで実行じました。服に関しては、あの服なんか寝にくそうだったんで着替えさせました!あとこの世界にあっていませんから!」
今、俺は確実に異世界の洗礼を受けている。

「まぁまぁ朝ごはん作ったんで、食べてくださいよ。私がよりをかけて作ったんでおいしいですよ!」
俺はRPGにでてくる村人Aのような服を身にまとい、出された朝食を口に運んでいく
「あのー昨日聞きそびれちゃったんですけど、本当にぼくがやるんでしょうか?代わりの人呼んでもらうとか…」
「あー別に呼んでもいいですけど、その瞬間サトシさんバラバラになっちゃいますけどいいですか?」
「えー・・とそんな怖いことになるのはなぜなんですか?」
「もぉー朝から疑問ばっかのせいでせっかくの朝食が台なしですよ。いいですか、あなたたち異世界人はこの世界にとって異分子、もともと存在しないものを存在させるためにはそれ相応の力が必要なんですよ。その力は私の魔力に換算すると一人分ぐらいが限界なんですよ、それを無視して違う人を召喚した場合魔力が足りなくなって魔力が尽きたサトシさんはパーンと散るってことです。」

「じゃあどうやって元の世界に戻れば…」
「召喚された理由の除去。今回はイレギュラーの排除がそれですねー」
「そんな簡単にできることなんですかそれ」
「楽勝ですよ。その気になったら一瞬です。」

「…そこまで俺ってすごい存在なんですか?」

「あーじゃあちょっと試しましょうか」
おもむろにマルタさんはテーブルの上に小さな宝箱をおいた
「はいじゃあこの宝箱の中身をみてください」
なんもない空っぽだ
「みました?じゃあ一回閉じて『この宝箱にはコーヒーが入っている』って言ってみてください」
本当にそれででてくるのかなぁ
『この宝箱にはコーヒーが入っている』
そう言ってから宝箱を開けると
「…」
まじで缶コーヒーがおいてある。
「どれどれ、おぉーこれなんですかこれがコーヒーなんですかすごいですね!何でできてるんですかこれ」
一人騒いでいるマルタさんを尻目に俺はこんなマジックみたいなことに少なからず恐怖を抱いていた。

 ひと通り朝食を食べ終わり、ゆったりした空気が流れている。
「さささ朝食も食べ終わりましたし、朝食の準備なんにもしてないんだから一緒にお皿は洗ってください」
そのとおりだなと思い皿を洗いに行った
「あのー最後に質問なんですけど、召喚される条件とかってあるんですか?」
「召喚される条件というか、呼ばれる人間には共通した人間性があるんですよ。」
「というと?」
「心に嘘をつけないもの。まぁ都合のいい正直者ってことですかね」
都合のいい正直者・・・か、それって言葉を変えるとただの臆病者ってことじゃないのかな。

皿を洗い終わる直前、家の外から犬の遠吠えのような声が聞こえてくる。

「どうしたんですかマルタさん手止まってますよ」
「・・・まさかこんな朝っぱらからくるとは困りましたね」




 マルタさんは水を止めることなく家を飛び出す。
「サトシさん!すいませんご飯食べたばっかですけどお仕事です!ついてきてください」
俺は戸惑いながらもついていく、そういえば最初に敵の名前は聞いたが、具体的に『何』を倒すかは聞かなかったな
昨日暗かったからわからなかったが、本当に村らしく小さな家々がまばらにたっている。そんな村の入り口にアレは立っていた。

「はいそこのイレギュラーさん止まってください!暴力は止めましょう話しあえばわかります」
「ハハハおもしれぇなことを言うなぁ、俺らは分かり合えない だからこそイレギュラーなんだよ」
でかい・・・2m以上は確実にある。
しかも…人の形をした狼。
人狼だ。

「やっぱり魔術協会の人間が派遣されてきたか、ちょっと派手にやりすぎたなぁ。おまえがいるっていうとその横にいるガキが今回の勇者様ってところか」
長く研ぎ澄まれた爪で指を刺される。

「おまえら異世界人のせいでこの世界は『呪い』をかけられちまった。どいつもこいつも話し合い話し合い、すべてを救うため遅くなが~い答えをだし、未来を見つめるだけで、今を生きいているという至上の喜びを貪り尽くせない。なんとも欺瞞に満ちた世界になっちまった。俺は自分の心に正直に生きたいっ!すべてを破壊し、喰らい、衝動的刹那を思う存分楽しみ尽くしたい!こんな風にっ!」
人狼はその銀色に輝く腕を村の入口付近にあった家屋の壁に叩きつける。
その家の壁は、自動車が激突したような穴が空き、中にいた住人が微かな悲鳴をあげる。

「村人さんたちはこんなところでかくれんぼか。あーやだね、俺だってこの世界の住人なのに呪いがかかってないだけでこんなに厄介者のレッテルも貼られちまう」
「止めなさい!村人たちにはなにも罪はないでしょう」

人狼は一瞬鋭い視線をこちらに投げると俊敏な動きで近づきその人間の頭ほどある手を振り上げる。
「なら…止めてみろ」
振り上がった拳はそのまま地面に突き刺さり石の礫を巻き上げる
「サトシさん危ないっ!」
礫たちは容赦なくぼくらに突き刺さる。咄嗟にかばってくれたマルタさんのおかげで直撃は免れたけど、かすかに礫が当たった場所は鈍い痛みを走らせ淡い血を滲みだたせる。

なにかウソを言わなきゃ…
止められるのは俺だけって言ってたじゃないか。
なんでもいいからなにか

「さぁ勇者様その力で俺を倒してみてくれよ。あいつがやったように俺らの心を殺してみてくれよ!」
身体の震えが止まらない。思考が際限なく廻っている。答えが…でない
「あらら言葉もでませんか、まるで意味がねぇな。じゃあ終わりにするか。」
自分の目の前に鋭く牙が生えた口が開けられる。
「あ、あ、あ・・・・」

「別れは必要であり絶対である。そして、長き距離は思いを確かめる術でもある! セパレートゲート!」
マルタさんが詠唱を済ますと黒い闇が人狼を包む
「あらら、うかつだったな空間魔法か、攻撃はされないと思って遊びすぎちまったな。まぁ飛ばされてもせいぜい1日ぐらいで戻れる場所だろ。勇者様ぁその歪んた表情保ったままにしててくれよーすぐ帰ってくるからよー待っててくれ」
闇が人狼の巨躯を包み終わるとそこには何もなかったように風が通り抜け葉を舞い散らせた。

「これは…ちょっときついっすね…」
直後崩れさる彼女を未だ体の震えが止まらない俺はただ見つめることしかできなかった。




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