だが大丈夫だ、問題ない。10秒も待てば復活だ。

変に無駄なロールプレイで感情移入してしまったせいか、さらに感情が高ぶっている 。特殊部隊のユニフォームを着ると同時に、部屋の中、一人でスリッパとパンツ一丁の俺は、ヘッドセットを通じ、世界に向かって語りかける。

「話を戻すが、挿入、それは始まりであって終わりじゃない。それは文字通り、登竜門に過ぎない。童貞がなぜ童貞なのかわかるか?それは自分がどんなに足掻いても、どんなに頑張ろうとも、決して周りの好みの対象を振り向かせることができないとわかっているからなんだ。」

「一回のラッキーチャンスでセックスできた?そうか、ではゴルフで一度ホールインワンを打てたからといって、お前はプロになれるのか?違うだろ。人間として好かれるようになる。意志と権力を用いて、清純であれ不純であれ、自分から歩み寄って巧みな話術で相手の興味を惹く。これができる実感と、顕在的な力が必要なんだよ。そして愛情の緩急による押し引きで均衡を保ち、愛自体を増大化させていく。そうやって無やら有を作り出し、自己の意思を体現させる、そしてセックスをする。それだけのものが必要なんだよ、童貞を克服するためにはな。」

「セックスしたからと言って童貞を卒業できると思ったら大間違いだ。」

「ブラボーチーム、包囲網は確保されたか?」

「ラジャーサー、一人も逃がしはしねぇ、突入はいつでも行けまっせ」

銃を構え、突入隊の俺は配置につく。

突入5秒前。動悸が早まる、身が引き締まる。デルタ隊はちゃんと配置についているのか?エプシロン隊は今回は排気口からの潜入を察知されなかったようだ。
なかなかのものだ。これなら戦略的には俺たちの方が断然有利だ。

負けっぱなしなんでね、今日は勝つぜ。

オペレーション・ファントムライジングの最終フェイズ、この作戦の結果によってこのゲームの勝敗が決まる。

stick together team!
チーム、密集しろ!

get in position and wait for my go.
配置について俺のゴーを待て

get in position and wait for my go.
配置について俺のゴーを待て・・・もう少し待て・・・

get in position and wait for my go.
配置について俺のゴーを待て・・・あとちょっと・・・・

「うるせー、命令コマンドを連打するんじゃねぇ、スパム報告するぞ。」

オレは威嚇で、ナイフを装備し、連発していたチームメイトを何度か刺す。もちろん、味方打ちはサーバー側が無効化していると知っての上での行為だ。

だが、それと同時に、こんな重要な局面を前にしても俺の思考は止まらない。
そしてそれは言葉となって流れていく。

「続けよう、かつて古来に存在したその楽園「あらでゅ~」では、人間は自由であったんだ。価値観の押しつけ、圧迫、捻じれ果てた見えなき監視と暴力、そんなもの一切なく、個人は個人でマジキチを貫き通し、そしてそれを謳歌していたんだろう。愚鈍な理の共通認識によって支配されていない世界、狂っているのが当たり前の世界であった「あらでゅ~」。狂っているが故に、価値基準が平等な世界。それは、きっとあったはずなんだ。確かに平和じゃなかっただろうさ、狂気で全てがひっくるめられていたんだから。だけどな、この失われたマジキチの世界、むしろ今よりは生き易かったはずだ。」

「俺はその、あらでゅ~の意思を受け継いで今ここにいる」

gloria95:そんなこと言ってるあなたがマジキチだわさ

ここで配信の常連チャ民の「グロリア」が平坦にコメントを打つ。ああ、まさにその通りさ。

ustraemer-04843:なにを言っているんだこの人・・・
ustraemer-389282:どっかの新興宗教の勧誘でも受けたのか、頭おかしいだろ。

俺は続ぇり

「そう・・・はるか昔、あらでゅ~ではマジキチは謳われたものだ。彼らはわかっていた、それが閉塞した世界を打ち砕くための特効薬、自分がありのままでいるための糧であること、抑圧と迫害から身を守る一筋の光、希望であるということを、わかっていたはずだ。」

「ああ・・・マジキチ狂和国・・・あらでゅ~・・・」

オメガ隊長:「チーム、密集しろ!いつも通りだ!」

俺達はその階の部屋のドアの周りに張りつく、そして配置につく。

「オ・・・オメガ3、準備はいいな?」

「へい、いつでもどうぞ」

このヘッドセットマイクを通じて、俺は世界と繋がっている、この場所、この瞬間
には自分が言いたいことを言えて、振る舞いたいように振舞える、そこには自由がある。
そして、その言動の集大を求める者達もまた、この場所に集まる。

言葉が紡がれる。

「しかしだな、童貞の壁はベルリンの壁より厚いぞ。繰り返すが、セックスして童貞を卒業できると思うなよ。日々、乳繰り合うイケメン共よ、言わせてもらおう、貴様らは童貞を最初から持っていない。先天的にすでに喪失しているのだ。故に俺たちはお前らが持っていない、確固たる物を持っている。」

誰も見ていないがオレはモニターに向かって人指し指をビシリと突き立てる。はたから見たらこの光景、どう思われるんだろうか。

ustraemer-66632: 先天非童貞説キタアアアア
ustraemer-93929:ルサンチマンもここまで来ると恐ろしいものだな・・・

ステージはオフィスビルの15階、外では雪が積もっている。

俺は相手を眩ますための関光爆弾(フラッシュバング)を手に持ち、合図を待つ。

「よし、オールレディー、行け!Go! Go! Go!」

大木を担いだ4人のチームメイトが突進し、ドアをぶち破る。

Storm the front!
皆殺しや!行け行け!

俺はピンを抜き、手榴弾を放る。

だが、俺の口は止まらない

「お前らは生温い世界を求めている、風俗にでも行って金を払えばその忌まわしき呪いから脱することができるとな。だけどな、俺はそういったテイラーメイド、最適化された幸福論なんてうんざりだ。どこかに行ってしまえ。この場所ではそんなもの通用しない、俺は五里霧中の現実を提示していく、幻想は切り裂いていく。」

ドアを開き、動く者は全て駆逐すると、決死の覚悟で俺達は突入する。

ではCM前の問題です、次にいったいなにが起きたでしょう?

A.俺たちは任務を遂行させ、正義の代行者として悪者を一層した。
B.テロリストを一掃しようとしたが、残った一人が、パニックに陥り、人質を盾にし、立ち往生になる。そこで排気口から進入していたエプシロン隊員が、後ろから寄り添って、テロリストを後ろからナイフで刺殺する。世界は光に満ち溢れ、世界の平和は守られた。
C.部屋に入ったら、松子デラックスがいた。彼女はソファーの上で唾液を撒き散らしつつ白目を向きながら怒涛の勢いで自分の足の爪を噛んでいた。パーティーのSAN値はマイナス5。ところで、見かけによらず体が柔軟なんですね。

結末はいかに?

答えは・・・次回に続く・・・



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