ムジャヘディンにより部隊が殲滅された。もう一ゲームしたい所だが、今日に限ってはもう限界だ、5時間ぶっ続けでやっているんだ。

俺はチャットの声を無視する、どうせ明日の朝に死ぬなら、もう俺はゲームをせずにただしゃべっていたい。

俺はウィンドーズ付属のフリーセルを開き、単純作業のゲームをしつつブツブツと語り始める

ustraemer-039218:こんな時間まで高校生が配信してるなんて、世も末よのう・・・

大きなお世話だ、見てるお前も同類だろうが。

ustraemer-39291:結局さっきの童貞トークはなんだったんだ・・・
epsilon-leader:つぎ手抜いたら殺す

俺は明日死ぬかもしれない、だから今ある全てをここに叩き出す。

カチッカチカッチカチ

トランプのカードが並べれる。

「マジキチ狂和国あらでゅ~はかつては存在した。そこでは人々は理性を持たず、自由だった。あの国では、自分が思っていることが正しいかどうかなんて判断されなかった。理性は人を縛る、正しい答えがあるということを信じ始めたことによって俺たちの目は曇ってしまったんだ。」

「楽園はあった。だが、栄枯盛衰、形あるものは崩れるものだ。その楽園が崩壊した結果、俺たちは理性というものを手に入れてしまったんだ。そしてそれは同調、服従へと続いていく。」

とは言っても語れる存在でもないんだがなオレは。どうせ同じ穴の狢だ。理想を掲げ、革命でも引き起こして、今持っている全てを投げ出し、つまらない日常から脱却しようとする決意なんてまるでない。かといって、空想の世界の存在を説き、盲信者を集めて、怪しい宗教をおっ始める気もない。俺は無稼動で抵抗する、パッシブ・レジスタンスを展開する目論見だ。

虚言と妄想の世界、その通りかもしれない。だが、確かにあったんだ、あらでゅ~は。その世界は、俺のノスタルジアを惹きつける。

カチッカチカチ

ゲームの方ではだんだんと均等なトランプの列が出来上がっていく。ワンゲーム終えた俺は、同じことを繰り返す、単純作業でわずかながら気が鎮まる。

どうやらチャ民の間では、さきほど呟かれた空気振動のパタンにより、感銘の嵐が荒れ吹き、沈黙を保っているようだ。この高尚なロジックを、彼らはゆっくりと咀嚼して呑み込んでいるはずだ。

束の間に出来上がる静謐な空間、そしてチャ民は反応する。


epsilon-leader: うるせー、なんかもっといいゲームやれ
ustraemer-38291:は?????
ustraemer-489291:もっと面白いこといってください
gloria95: 相変わらずなにを言っているのかわからない、ただ言いたいだけでしょ

俺は無視してこう続く 、

「しかしあらでゅ~とは違う、別の世界がある。そこでは権威やら力を求めるならば、なんらかのバリューを発揮することが常に求められる。そして他の誰かがそれを評価するなら、等価だと見なされるものが提供される。そういった具合に、価値の合意があり、価値あるものの交換によってグルグルグルグル延々と世界は廻っていく。その世界は打算によって支配されている。価値無き者は排除され、一旦排除された者は這い上がれない世界。誰かが好意を寄せてきても、そのバリューを発揮し維持できなければ、人に見捨てられるシビアな世界。」

「しかしそんな世界では、至極当たり前な営みと秩序が、俺にとってはサステナブルだと思えないんだ。そしてその世界は拡大する一方だ。」

「かと言ってだな、打ち勝つためには、愛は答えじゃない。その世界では地縁や純真さだけでは救済は保障されない。その世界では策略と、小手先の手口が物を言う。

ここで俺は言い切る、そしてまるでなにかを書き切った後にゆっくりと筆を机に置くように、俺は自分の口から漏れる息の経路を塞ぐ。

gloria95:はっきり言おう、そんな世界はない
ustraemer-272782:全体がそんなわけないじゃないか。お前の小さな世界の話だろ、バカか?
epsilon-leader:ところで、オレはサラダにはシーザーではなくゴマだと思っている

カッチカチ

黒の9が束の真ん中に埋もれている、これをどう掘り出すかが問題だ。

口と声は止まらない。

「でもさ、人間の生における成功ってのは大体、群れることによって成し遂げられるだろ。自分にとってより強い、より権力を持っていくやつに対して媚びていく、それができたらそいつに付き従う、あるいは奪いとる。」

カチッカチカチカチカチカチ

スーハースーハー

俺の呼吸は次第に荒くなっていく。死期が迫っている前兆か?

「その当たり前なプロセスにオレは懐疑心を憶える。それとは別に、本質的に、絶対的に価値が上回るものがあるとどうしても考えてしまう。その世界では俺は成功者にはなれない。その世界で成功するには小手先の手口、話術によって人から評価を得て、コンスタントに過去と未来の人間関係を改変し続けなければならない。そのやり方で、自分にとって都合のいい未来を作っていけるほど、オレには勇気もやる気もない。群れることに長けているヤツだけが、必ず「勝つ」世界を、俺は畏怖する。それは侮蔑にしか値しない世界だろ。」

侮蔑する理由が俺にとって得じゃないということに過ぎないところが、矮小な器の表れだな。


カチッカチカチカチカチカチカチカチ

「しかしそこには矛盾があって、全ては欲望に帰結するということだ。俺は本質的にチヤホヤされたいだけであって、正義の話ではなくて、単に俺がその世界でやっていけないから、シットな嫉妬、妬みによるモチベーションで新たな世界を描いている。この動機、不純じゃないか、それこそ価値無きものじゃないか?」

「その矛盾を受け入れ、乗り越え、その世界に抵抗するためには、自分にとって真に価値あるものを創りだして、それを信ずる者たちから評価を得るしかない。だけど、だけど、今のオレにはなにも出来ていない。」

そういうことなんだよ。なにかをやらなければならない、このままではダメだ、レジストしていかなければ負けてしまう。だけどそれが出来ていない。わかっているんだ。

今の俺には愚痴を下手に発散しながらゲームを進めることしかできない。

gloria95:自分を締め付けてもなにもならない。もっと楽な生き方はあるはず
epsilon-leader:ところでオレはTENGAよりゲルトモだと思っている
gloria95:でも、貴方だってその盤上のゲームに参加せずには居られない。なら変えられない現状に嫌悪感を抱くなんて時間の無駄。愚か、そしてそれこそ視野が狭い。
ustraemer-01484:明日は早い、もう寝ろ

グロリアの返答は相変わらず辛辣だ。

gloria95:あなたのその歪な厭世的な視点を共有しているのなんて、ほんの一握りの人間。
gloria95:普通の人はそんなこと意識しないし、そんな構造があるとしてもそれは無意識的に作られていて、
gloria95:それは社会全体にあるもので太刀打ちできるものじゃない。受け入れるしかないんじゃない?
gloria95:あるいは、その構造を理解した上で、その中で利用していくか。

グロリア。こいつはそうとう出来るやつだ。俺はこのチャ民が女性だと仮定している。彼女のホスト名に地名が乗っていないので、どこに住んでいるのかもわからないが。

epsilon-leader:ちなみにティッシュ3枚ほどだけでは突き抜けてしまう恐れがある。処理には5枚ぐらいが最適だ。

エプシロン隊長、こいつはいったいなにを言っているんだ。あと、肩書きが胡散臭すぎる。

それはともかくとして、かつてはあったはずの世界、あらでゅ~。

グロリア、エプシロン隊長、そして他のチャ民の方々、今までこんなくだらん御託に付き合ってくれてありがとう、感謝する。君たちのおかげでこの配信は今まで成り立った、それは確かだ。耳を傾けてくれて、ありがとう。

死神の彼女はこれを今見ているのかどうかはわからない。もしかしたら画面の向こう側で無邪気な笑みを浮かべ観察データを取っているのかもしれない。

まだまだ語り足りないがしかし俺はもう眠くなってしまった。

俺は明日死ぬ・・・かもしれない、それは嘘かどうかはその時が来なければわからない。

なのにこんなことしか言えないなんて情けないものだ。もっと他にあるべきだろう、愛と正義と平和とかのメッセージが出てくるはずだろう、後悔やら悔やみやら未練やら思い残しなどなんでもいいからとにかく、自然と自分と何か他のものを縛り付けるものが出てくるはずだろ。

だけど、そんなもの、すぐには出てこない。マジキチの道は孤独の道である。

しかしだな、自分の何かを守るためにしゃべり続ける。とにかく、しゃべり続ける。それが今の唯一の手立てなんだ。

「もうこんな時間か。では、そろそろ今日のダンゴ~配信は終わりま~す。ご視聴ありがとうございました。」

ああ・・・マジキチ狂和国あらでゅ~・・・



感想  home  prev