5.
「なんじゃい、この若造は」
見るからに、頑固親父。
そんな印象。
頭頂部は禿げあがっており、口元には立派な髭が蓄えられている。
背も高く、がっしりとしている。
「あなた、おかえりなさい」
たたらさんは頑固親父の鞄を受け取った。
そして、自分がひったくりに遭ったこと、僕が下宿することになった経緯を説明した。
「ふむ。なるほど。よーく分かった」
頑固親父は腕を組みながら、
「儂の名は、鐵 一鐵。妻が世話になった様じゃな、礼を言う」
ありがとう、と言いながら一鐵さんは頭を下げた。
と思ったら、すぐに顔を上げて、
「名は! お主、名は何と言う?」
僕はいきなり顔を上げたのに驚きながらも、自己紹介をした。
「僕は四堂 御空といいます。これからよろしくお願いします」
僕はそう言いながら、一鐵さんにお辞儀をした。
一鐵さんは髭をさすりながら、
「ふむ。みそら、か。まるで女のような名前じゃのう」
むぅ。
ちょっぴり気にしてるのに。
僕は何か言い返したそうにしている母さんを制して、
「いずれにせよ、お世話になります」
僕は、右手を前に差し出した。
一鐵さんもそれに応じて、
「ふむ、宜しくな。若造」
一鐵さんはその大きな右手で、力強く握手してくれた。
……ちょっぴり痛い。
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