7.



僕とハルは部屋に戻って、早速PCの電源を入れた。
PCの起動音が部屋の中で小さく響いている。


「なぁ、本当にやるのか?」
「もちろんだよ。その為に一人暮らしをしようと思ったんだから!」
「まぁ、そこまで言うなら俺も止めないけどさ。大丈夫か?」
「きっと問題ないよ。ちゃんと配信方法も動画で勉強したし、出来ると思う」


そう、僕がしたかったこと。
それは、配信。

僕は、“配信者”になりたかった。



配信、という言葉を聞いたことがあるだろうか。
いや、これは愚問かもしれない。
今やネット上でも珍しいものではなくなったから。

簡単に言えば、他人に自分がすることを見せる事、と言えばいいのだろうか。
人によって解釈は違うにしろ、まぁそんなところだろう。
そして、それをする人を配信者という。

その配信者が何をするかは、人それぞれ。
ゲームをしたっていいし、雑談してもいいし、それこそ本を読んだっていい。
自分のしたいことをすれば良い。
もちろん、法に触れない範囲内で。


僕が配信を見始めたのは、1年前。
何もすることが無くて毎日退屈だった僕にとって、配信は斬新なものだった。

別に、配信者が特別な事をしている訳でもないのに。
それこそ、単に雑談をしているだけであっても。

僕にとっては、友達と話しているかのような感覚だった。
まぁ、それが勝手な思い込みであったとしても、だ。

何にせよ、当時の僕にとって、配信は1つの楽しみになっていた。
生き甲斐、と言えば少し大袈裟かもしれないけれど。
それ位、大事なものだった。

いつしか僕は、自分も同じことをしてみたくなっていた。

今年の初めくらいだっただろうか。
僕はその為の計画を始めた。

PCを購入したり、配信方法などの勉強をしたり。
LemonChatの導入など、とある配信者さんが解説動画をアップしてくれていたので、とても分かりやすかった。

最も苦労したことは、家族を説得する事だった。
名目上は大学への進学、そしてその為に一人暮らしをすること。
それでも母さんは、それはもう猛烈に大反対だった。
僕を心配しての事だったのだろうけど。
何を言っても許して貰えそうな感じではなかった。

流石に無理かと思ったけれど、父さんが一言、


「御空がそれを望むなら、そうしなさい」


まさに鶴の一声だった。
それからとんとん拍子に事は運び、こうして今に至っている。

しようと思えば、今からでも始められる。
準備は万全。


「俺が心配してるのは出来るか出来ないかじゃなくって、御空自身だよ。視聴者がみんな優しい人だなんて限らないぞ?」
「覚悟はしてるよ。でも大丈夫、何言われたって平気。僕だって強いんだ」
「それなら別にいいんだけどな。まぁ、初配信するときはメール送ってくれよ。見に行くから」
「えー、恥ずかしいからやだ」
「お前なぁ……」
「ウソウソ、ちゃんと伝えるよ」


ハルはふぅ、と溜息をついて肩を落とし、


「んじゃま、俺も帰るわ。一人暮らしと配信、頑張れよ」


そうして、ハルも家に帰っていった。

僕以外、誰もいなくなったこの部屋。
この部屋で、僕の配信生活が始まるんだ。


「よし……やるぞっ!」


誰もいない部屋で一人、僕はやる気に満ちていた。


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