8.



そのやる気から、数日が過ぎていた。
配信環境も準備も万全。
QstreamCheckerにも登録した。
けれど、配信ボタンを押す直前になって、尻込みしてしまう。

ちゃんと自分に出来るだろうか?
緊張で何も話せなくなってしまうのではないか。
そんな不安ばかりが頭をよぎり、なかなか一歩先に進めない。

でも、今日こそは。
今日こそは、やってやる!


「ままよっ……!」


とうとう、僕はそのボタンをクリックした。
一瞬画面が固まり、すぐに切り替わった。


僕の配信が、始まった。


まず、僕は用意していたBGMを流した。
緩やかで明るい雰囲気の音楽。

と、LemonChatに早速チャットが書き込まれ始めた。
事前にWhisperで行った配信告知の効果らしい。



Qstreamer-62713:初見
Qstreamer-86863:whisperから
Qstreamer-98918:こんばんは!初見です!



僕の心臓がドクンドクンと高鳴っている。
落ち着け、落ち着くんだ。

僕は一度、大きく深呼吸をした。
大丈夫、大丈夫。
ちゃんとイメトレしたんだから。

よし……!


「みなさんはじめまして! ソラと申します! これから時間がある時に、配信していきたいと思ってます。よろしくお願いします!」



Qstreamer-86863:よろしく!
Qstreamer-62713:男?女?
Qstreamer-98918:素敵な声ですね!



最初に少し自己紹介をして、そのあと雑談をした。

話している間にも視聴者数は増えていき、一時は50人手前までになった。
僕の緊張もそれに伴ってエスカレートしていたけれど、話しているうちに少しずつ慣れて、緊張も徐々にほぐれていった。



時間はあっという間に過ぎて。


「それでは今日の配信は、ここまでにします。見て下さった方、今後ともよろしくお願いします」




それでは失礼します、と僕は配信終了ボタンを押した。



押してすぐ、僕は一気に脱力した。

結構疲れるものなんだ、というのが最初の感想だった。
配信開始から終了まで、たった1時間。
たった1時間でここまで疲れるんだから、他の配信者さん達はどれほど疲れていたのだろうかと思う。
単に慣れなのかもしれないけれど。


と、ふと僕のスマートフォンが震えだした。
ハルからメールが送られてきたらしい。




配信見てたぞ。
見てて普通に楽しかったよ。
御空も結構楽しめてたみたいだし、良かった。
まぁ、これからも頑張れや。




確かに、今振り返ってみれば。
緊張はしてたけど、楽しめていたような気がする。


ってか、超楽しい!


僕はチャットに書かれている『乙!』という言葉を眺めながら、自分で配信をする面白さというものを噛み締めていた。


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