9.
楽しい時間は早く過ぎるもの。
梅雨が過ぎて、今や夏の真っ只中。
蝉達の命懸けの鳴き声が、世の中を夏色に染めていた。
僕の配信も、大分安定してきていた。
基本的には雑談で、たまにフリーゲームをしたりもして。
話す内容なんて、他愛もない事ばかり。
その日あった出来事や感じた事、自分の考えなどを話していた。
たまには他の配信者の人のラジオに参加したり、僕自身がラジオを企画したりすることもあった。
そうそう、ハルと一緒に配信したりもした。
ハルの自己紹介する時の声が緊張のあまりとても小さくて、笑ってしまったことをよく覚えている。
視聴者の数は初配信ほどの多さではなく、毎回10人から20人程度だった。
決して多くない、むしろかなり少ない方ではあったけれど。
それでも、毎回楽しかった。
ちなみに、視聴者には僕の性別が分かっていないようだった。
ある意味バレていない方が面白いと思って、そこは秘密にしておいた。
あと、自分が学生であることも秘密にしていた。
それは配信を始める前から決めていたことだった。
自分の個人情報をあまり明らかにせずに、ただただ自分自身を出していこう。
何となく矛盾しているような気もするけれど、それが僕のルールだった。
“配信論”というものは、難しい。
例えば、何のために配信するのか、とか。
人によって様々だし、それぞれがそれぞれに間違っていない。
そもそも『答え』なんてないのだから。
その多種多様さが、配信の面白さの1つかもしれない。
そして僕の場合、配信は『自分の為にするものであり、そして誰かの為にするもの』だった。
まず配信者自身が楽しんで、そしてそれを見てくれる誰かもほんの少しでも良いから楽しんで欲しい。
出来れば、お互いにプラスであって欲しかった。
それがたとえ0.1でも0.0001でも。
ほんのちょっぴりでも楽しんで貰えたなら。
僕はそれで満足だった。
少し我儘かもしれないけれど。
それだけで、僕がいる理由としては十分だったんだ。
ただし。
その代償は、やっぱり払わなければならなかったけれど。
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