10.



蝉の鳴き声が聞こえなくなった、10月のある日。





余命1か月。

僕の担当医は、深刻な顔で僕にそう告げた。




生まれてからずっと僕と共に生きてきた病気が、ようやくその仕事を終える時が来たらしい。


月一回の通院では、やっぱり限界があったか。


僕は余命を聞かされても、正直そんなものだろうと思った。
今月に入ってから、急に体調が酷く悪化していたから。


何も急な話じゃない。

前から、分かっていたことだ。

あと1年、もたないだろうと思っていた。




だからこそ。

だからこそ、僕は。


無理に病院を退院してでも。

寿命を少し縮めてでも。

命に代えてでも。



最期に、自分が出来る事をしたかった。






その内の1つが、一人暮らし。
自立して、自分自身の力で生きてみたかった、というのもあるけれど。

何より、母さんや父さんに慣れておいて欲しかった。



僕のいない世界を。

きっと僕は先に逝ってしまうから。



もしかしたら二人共、僕に残された時間を出来るだけ一緒に居たいと思っていたかもしれない。


残り少ない最期の時間を。
でも、そんな思いを押し殺して、僕に一人暮らしをさせてくれた二人。


僕の我儘を許してくれた、父さんと母さん。



ありがとう。



でも、だからこそ、僕は離れることにした。


いつか来る、その日々のデモンストレーションとして。

父さんと母さんの痛みが少しでも、和らぐように。

それが僕に出来る、些細な親孝行だった。




本当はね、僕も一緒に居たかったよ。






そしてもう1つが、配信だった。

これはもう、完全に僕の我儘かもしれない。
人生の大部分を病院や自宅で過ごしてきた僕も。
今、こうしてちゃんと生きてるってことを誰かに示したかった。

なんて勝手なんだろう、と自分でも思う。
それは単なる自己満足なのではないかと。


でも、それでもいい。
満足してあの世に逝けるなら、それでいい。




ただ、逝く前に。


僕の配信を見に来てくれたみんなに。
僕が生きていたことを知っているみんなに。
僕を助けてくれたみんなに。



別れも何も告げずに、いなくなるようなことはしたくない。

だからこそ、僕はしなければならない。






僕の、最後の配信を。


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