11.



「みなさん、こんばんは! ソラです。最近ちょっと寒くなってきましたね」



Qstreamer-98918:こんばんはー!体調大丈夫ですか?
Qstreamer-17234:配信キタ━━━━(゜∀゜)━━━━ッ!!
Qstreamer-83059:おいす



いつもと特に変わらない挨拶。
ただ、これで最後なんだ。

今、僕の後ろにはハルがいる。
母さんや父さんも一鐵さん達と一緒に本家の方で待機している。

ハルは、かなり心配そうな表情を浮かべている。
僕はハルに『大丈夫だよ』と親指を立てて示しながら、そのまま配信を続けた。


「実は、みなさんにお知らせがあるんです」



Qstreamer-98918:!?
Qstreamer-83059:何だ?
Qstreamer-17234:とうとう性別公開の日が来たか…



「性別は公開しません! 今日はね、お別れを言う為に配信をつけたんです」



Qstreamer-98918:え!?
Qstreamer-17234:えええええええええええええ!?
Qstreamer-17234:嘘だああああああああああああ!!!
Qstreamer-83059:どういうこと?



「実は、海外に行かないといけなくなってしまって……。その滞在先がとんでもない田舎で、ネット環境が整っていないみたいなんですよ。何年後に日本に帰られるかさえ分かってなくて、当分配信も出来なさそうなんです。だから、今日ちゃんとお別れしておこうかなって」



Qstreamer-83059:もう帰ってこないのか?
Qstreamer-17234:嫌だああああああああああ!!
Qstreamer-83059:17234黙れ
Qstreamer-17234:(´・ω・`)
Qstreamer-98918:これで本当に最後なんですか?



「落ち着いて。うん、とりあえずはね。でも、絶対に帰ってこないって決まった訳じゃないよ! いつか、帰ってくるかもしれない……かな」



Qstreamer-98918:寂しいです…。
Qstreamer-83059:そうだな
Qstreamer-17234:(´;ω;`)ソラタン



「ごめんね。僕も、もっとみんなとお話ししたかったんだけどね。どうしても、行かないといけなくてさ。寂しいけど、僕の配信はとりあえず、これが最後です。半年の間だったけど、みんなありがとね。とっても楽しかった。配信し始めた頃は緊張で上手く話せなかったけど、少しずつ話せるようになってさ。いろいろ企画もしたよね! 凸配信やラジオ企画したりね」



Qstreamer-98918:ラジオありましたねー。ソラゴト、懐かしいですw
Qstreamer-83059:結構面白かった
Qstreamer-27391:俺凸したわー。緊張した
Qstreamer-17234:ソラたんの歌声ハァハァ(*゚∀゚)=3



「……歌の事は忘れて下さい、お願いですから。でも、確かに懐かしいね。最近あんまり配信出来てなかったし。久々の配信が最後の配信になっちゃったけど、やっぱり配信って楽しいね」



Qstreamer-17234:(´;ω;`)



「泣かないで……。 他にも配信者さんはいっぱいいるから、ね」



Qstreamer-98918:それでも、ソラさんの配信が好きでしたよ
Qstreamer-27391:俺も俺も
Qstreamer-17234:ソラたんじゃなきゃヤダ!c(`Д´と⌒c)つ彡



「あー、もう。嬉しいなぁ。止めるの、辛くなっちゃうね……。でもね、どうしようもなくてさ。本当に名残惜しいけど、これが最後……です。でね、もし良かったらなんですけど、最後に1つ、お願い事があってね」



Qstreamer-98918:何でしょう?
Qstreamer-17234:ナンデモコイヤァ!(屮゜Д゜)屮



「ふふ、ありがと。お願い事っていうのはね、出来れば僕を忘れないで欲しいって事なんです。ちょっと我儘なんだけどね。配信者にしても誰にしても、その人と関わりが無くなってしまえば、忘れてしまうのが普通だと思うんです。でも僕は、それがちょっぴりさみしくて。だからね――」



「もし良ければ、もし赦されるなら、皆さんの心のどこか片隅に、いさせて下さい」



「ずっと覚えていなくても良いんです。それはとっても難しい事だから。半年一緒にお話ししただけで、そんなことは出来ませんよね。だから、ふとした時に一瞬でも良いんです。これからもっと歳を重ねて、みなさんはそれぞれの人生を歩んでいかれるのだと思います。そのこれからの人生の中で、たった1秒でも、ほんの一瞬でも、『あーそういえば、そんな奴がいたなぁ』って思ってくれたら、思い出してくれたなら、僕はとても嬉しいです」



「それだけで、僕が生きている事になるから」



Qstreamer-83059:なんか遺言みたいだな
Qstreamer-98918:絶対忘れませんよ!
Qstreamer-17234:誰がソラたんを忘れるって!?o(*`へ´*)o



「ありがとうございます! 僕も、みんなのこと、忘れないからね。いつかまた日本に帰ってきて配信する事があったら、よろしくね」



Qstreamer-98918:その日を楽しみに待ってます!
Qstreamer-83059:俺も待ってる
Qstreamer-27391:俺も俺も
Qstreamer-17234:ソラたん好きだあああああああああああ! (ノ゚∀゚)ノスキダー
Qstreamer-86863:俺もソラが好きだ
Qstreamer-27391:俺も俺も
Qstreamer-98918:私もです!



「もう、照れるからやめて下さい! ……それじゃ、これで本当におしまいです。みんな、またね!」


チャットが早く流れていく中、僕はそっと配信停止ボタンを押した。


ハルの方を振り返ると、スマートフォンを覗いているようだった。
そして、顔を上げた。

ハルは悲しげな顔をしていた。



「僕の配信、とうとう終わっちゃった」
「半年間、お疲れ様」
「ありがとう。楽しかったよ。最後に嘘ついちゃったのが心残りかな」
「それは仕方ないだろ」
「まぁ、そうだね。あ、あとね――」

そう言いながら、僕はハルの方に近付いて。
ハルの目の前に立って。






「ハルに1つ、お願い事があるんだ」


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