「私が2人を殺しました」
 取り調べ室の中、壮年の刑事を前にして私は言った。その台詞に、刑事は疲れ切った溜め息を吐く。
「だからな、アンタが証言している場所に遺体は埋まってなかったんだよ。暗かったんだろう、場所を勘違いしているんじゃないのか?」
「でも、土を荒らした跡はあったんでしょう? だったら、そういうことですよ。死体を処分したのが誰であれ、私が殺したんです」
「凶器の包丁も、亡くなった笹本康介の指紋が一番上にあった。被害者に包丁を無理矢理持たせて切りつけたようなブレもない、言ってみれば綺麗な傷口だよ。あれは自殺で間違いないし、だからアンタも救急車を呼んだんだろう?」
「殺しました。私が、真澄と康介を殺しました」
「頼むよ、よく分からん嘘で捜査を混乱させないでくれ」
 だって、それが真実なのだから仕方ない。私が真澄を殺したときに、康介も一緒に死んだのだ。それならば、私が殺したと言って何の間違いもない。死に追い遣ることを、人は『殺す』と呼ぶのだから。
「ねえ、ヌイはどうしています?」
「ヌイ……ああ、ペットの犬ね。可哀想に、腹を壊して吐いたと聞いている。アパートの大家が面倒を見ているようだ。面識があったらしいな、よく懐いているとさ」
「あいつ、一人ぼっちだと寂しくて吐いちゃうんですよ」
「大家はご老人だったから、一日中ずっと一緒にいるだろう」
「そうですね、じゃあ何か悪いものでも食べたんじゃないですか」
 彼が愛する女は、私が殺した。そんな私が彼を愛するまで、彼は私を愛してくれていた。その愛情ごと彼が死んだとき、確かに私は彼に殺されたのだろう。
「……嘘つき」
 呟いた台詞に、刑事は「それはアンタだろう」と呆れた声で言った。



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