休みが終わってしばらくすれば、過ごしやすい季節がやってくる。
 日が照る時間は少しずつ短くなったし、帰るときの夕日は少しずつ左にずれて行った。
 それでもまだまだ寒くはならなくて。
 心地いい風が、屋上で遊んでいた。

 「コウタはさ、彼女とか作らないの?」
 夏以来たまに姿を見せる三毛猫と目を合わせたまま、サナエは動かずに言った。
 「僕には早いよ。好きな人もいないし。」
 「早いってことはないよ。」
 クラスの友達にも、彼女がいる人はいる。
 ケンゼンでマットウなレンアイだ。
 だけど、僕にそのレンアイが出来るとは思えない。
 「アヤにも彼氏出来たって言うしさ。そろそろコウタにも彼女の一人や二人出来る頃じゃないかと思って。」
 「結城に失礼だろそれ。」
 「そっかな?」
 あはは、と乾いた笑いを出すと、猫が近寄ってきた。
 ずいぶんと懐いたものだ。
 「――あたしさ、彼氏出来たんだよ。」
 それまでと全く変わらない抑揚で発せられた言葉。
 隣を向くと、まっすぐに三毛猫を見据えるサナエがいた。
 「そっか。」
 「そうなの。」
 「じゃあ、もうここにも来ないんだな。」
 「……そうか。そうなるかもね。」
 予鈴が鳴った。
 スカートを払い、立ち上がる。
 何も言わずドアを閉めると、僕と三毛猫だけになった。
 涼しい風が、何故か心に刺さっていた。




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