病院の受付で病室を尋ねると、少し戸惑った看護婦が教えてくれた。
 西棟の、八階。803号室
 病室のドアには、サナエの母親が立っていた。
 僕を認識すると驚いて、でも少し落ち着いた声で部屋に通してくれた。
 「誰にも教えるなって言われたのにね。自分で教えたのかしら。」
 椅子へ促すと、部屋を出て行ってしまった。その手にハンカチが握られていたのに、その眼が赤く腫れていたのに、気付いてしまった。

 窓際の小さなベッド。サナエが眠っていた。
 眠っているようにしか見えなかった。
 手を握ると、まだ少し温かい。
 西日が差す頬が赤く見えて、本当にまだ生きているかのようで。
 涙が、また零れた。
 「サナエ。僕もうそついてた。」
 好きな人がいないっていっただろ?あれ、うそなんだよ。
 ほんとはさ、お前のこと好きだったんだよ。
 きっと、誰よりも一緒にいたくて。
 だから同じ高校に入った。
 昼休みには二人で入れる場所にいたし、帰りだって同じ時間に帰った。
 意識してやってたわけじゃないよ。自然とそうなってたんだよ。
 だからさ、こうやってさ、手もつなぎたかったし。
 いっぱいレンアイっぽいことしたかったんだ。
 なのにさ。
 「大好きだよ。ばか。」
 僕たちの時間が、止まった。




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