三人は音楽室に来ていた。來空が思い浮かべたのが音楽室であることを証明するためだった。
「ほら、ボールなんてどこにもないじゃないか! どう考えたってあの『複数のボール』は家庭科室にあったボウルのことだ! 來空は苦し紛れにうそをついているんだ!」
「まあまあ。俊輝、落ち着こうよ。來空の説明をちゃんと聞こうよ」
 來空は楽器が置いてある場所に行ってある楽器を手に持って戻ってきた。
 それは器のような、見たことも使ったこともない楽器かどうかもよくわからないものだった。
「この楽器はなに? みたこともない楽器だけど」
「これは、クリスタルボールって楽器だ。シリカサンドっていう純粋な水晶の粉を何千度と言う温度で焼いて固めたものなんだ」
「た、確かにこれはボールなのかもしれない。ぼくはこれを知らなかった……。だけど、これは一個じゃないか! あそこには『複数のボール』って書いてあった!」
 その言葉を聞くと二人をクリスタルボールがあった元場所に案内した。するとそこには大小合わせた六個、來空が持ってきたものと合わせると七個のクリスタルボールがそこに並んでいた。
「クリスタルボールはこの七個で演奏するものなんだ。ちょっと聞いてて」
 すると來空はクリスタルボールを奏でだした。クリスタルボールを専用の棒で縁をなぞって音を出した。その音はとても柔らかい音色だった。
「すごくきれいな音色……すてき……」
 桜月は來空の演奏に聞き入っていた。俊輝も悔しそうな表情を浮かべながらも聞き入っていた。
「どう? これがクリスタルボールだよ」
「すごくよかった! きれいな音色だった! でもどうしてこんな楽器知ってるの? 演奏までできてたし」
 桜月の疑問は当然だった。同じ学校に通っている桜月と俊輝は知らなくて來空だけが知っている。しかも演奏をすることができる。
 だがその疑問の解決は容易だった。
「だっておれ音楽クラブに入ってるからね」
 理由はそういうことだった。だから桜月や俊輝が知らない楽器を知っていて、演奏まですることができたのだ。
「ただ、これの正式名称はクリスタルボウル、なんだよね。だから二人が家庭科室で調理するボウルのことに気付いたのは正直まずいかな、って思ったんだよ」
 家庭科室が答え出なかった理由。それは『ボウル』だった。言葉として書かれていたのは『ボール』。だが、調理で使うのは『ボウル』。これは全くの別物であり、『複数のボール』の言葉は家庭科室においてはうその言葉、となってしまうため、あの状況で家庭科室が答えに入ることはなかったのだ。
「だったらこれもボウルじゃないか! このゲームは――」
 その俊輝の言葉を静かに止めたのは桜月だった。來空はそれを見て言葉を続けた。
「ただこれはクリスタルボールと表記されることもある。それにもう一つ、ボールはあるんだ」
 そう言って指さした。そこにはクリスタルボウルに似た七個の楽器が置かれていた。
「あれはシンギングボールって楽器だ。あっちは完全に正式名称にボールが入ってる」
 俊輝、桜月の完敗だった。
 落ち込む俊輝を桜月が慰めていた。だが勝敗は付いたのだ。プレーヤーが辿り着けなかったため親の勝利、という形で。
 ――と、そんなことをしていると。
「なにを、している? こんな時間に」
 三人の背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
 三人は同時にゆっくり振り返った。そこには。
「「「げっ!」」」
「生徒指導の先生に向かって、げっ! とはどういうことだ!」
 聞き覚えのある声、それは生徒指導の教師の声だった。
 來空は反射的に時計を見た。
 ――昼休みはすでに終わっていたのだ。
「早く教室へもどれ!」
「「「はいっ!」」」
 三人は反射的にそう返事をし、同時に音楽室を出て廊下を駈け出した。すると。
「廊下は走るな!」
 背後からまたも生徒指導の教師の声が聞こえてきた。だが廊下は走ってはいけない決まりになっているので仕方がない。
 その声を聞いた三人は走るのをやめ歩き出した。
「ねえねえ來空」
「ん? なんだ桜月」
「楽しかったね! うそつきゲーム! 俊輝も楽しかったよね?」
「……最後は悔しかった。次はリベンジして來空に勝つ! そして桜月の力も借りないで勝つ!」
「こらああああ! 何ぺちゃくちゃ無駄口叩いてるんだ! 早く教室にもどれ!」
「「「はいっ!」」」
 走りだそうとするとまた。
「だから廊下は走るな!」
 同じ言葉が繰り返された。だが今度はその言葉守らずにそのまま走る三人だった。
「今度はぼくにもうそつく方やらせてよ」
 俊輝はそう言った。だが。
「いや、これはおれがうそつくのが一番しっくり来ていいんだよ。うその数が二個っていうのもおれだから成立する、みたいなところあるし。そしてそれを二人に当ててもらう。これがしっくり」
「どうして?」
 そう言ったのは桜月だったが、俊輝も納得のいかない顔をしていた。そんな二人に対して來空はこう言った。
「ん? まあおれたちの『名前的に』、な」
「「ん??? どういう意味?」」
「あとは自分で考えてくれ。負けた二人への、うそつきゲームリベンジ戦の問題、ってところかな」
 そう言い残して來空は走るスピードを上げて二人を振りきって先に教室へと戻った。

 こうして昼休み、もというそつきゲームは終了した。

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