閉じた瞼ごしに光を感じた。ついで鳥のさえずりが聞こえる。
普段、あまり聞かない鳴き声だった。目覚ましの代わりとしては上出来だ。
体を預けていた幹から上体をもたげ、木成はうっすらと瞳を開いた。
視界に真っ先に飛び込んできたのは赤いジャージだ。
元はもう少し原色に近かったはずだが、朝の日差しの下で見ると、あちこちが擦り切れ、錆でも生じたのかと見間違うほどに黒ずんでいた。
野根は首をだらりと下げ、正座を崩したような姿勢で座り込んでいた。
垂れた前髪が顔を隠し、表情は窺い知れない。
まだ眠っているのか、あるいは――きっと彼女が絶命したら、こんな格好になるのではないか。
「……部長。朝になりましたよ」
野根の肩に手を掛けて前後に揺する。気持ち悪いほど頭が揺れた。
「ん……ん、おはよ、木成くん……あいっ、痛ぅ……っ!」
首、寝違えちゃった――野根がそう呟いたところで、彼女を揺する手を止めた。
そうして引っ込めた手をズボンの尻で拭う。
彼女に触れたことに対して嫌悪感があったわけではない。
ただ、爪に詰まった土が気になったのだ。
「……ね、ねえ。木成くん」
首をあげた野根が、木成を――彼の後ろを見て呟いた。
低血圧の人間がそうであるように、さすがの彼女も朝の声は沈んでいた。
いや、沈んでいるというよりも、彼女の呟き声はひどく震え、まるで何かに怯えているように感じられた。
「なんですか」
「そこにあるの……さ。昨日は暗くて……っていうか、眼鏡がなかったから気づかなかったんだけど……。ううん、私の気のせいだったら、ちゃんと言ってね。裸眼だとほんと、何にも見えないからさ」
野根は両の手で瞼を揉むように押さえ、顔から手を離すことなく言った。
「そこの茶色くて長いのとか……灰色の丸っこいやつとか……」
「ええ」
「……人の、内臓っぽく……見えたんだけど……」
言われ、木成は彼女が見ていた方向へと首をひねった。
ついさっきまで自分が眠り込んでいた位置から、ほんの数十センチ離れた地面へと視線を注ぐ。
枯れ枝や落ち葉もなく、土が剥き出しとなった地面に浅い穴が掘られていた。
そしてそこには――
野根が言うところの〝人間の部品〟が詰め込まれていた。
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